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紺碧の将

あいまいな共存

2020.04.06

 令和二年に入り、そぞろ美術館散歩を楽しめたのはつい先日の感があるが、今や新型コロナウイルスの脅威が地球全国を駆け巡っているなんて誰が想像し得たであろうか。

 

 112日から宇都宮美術館で開催された「ヨーロッパの宝石箱リヒテンシュタイン侯爵の至宝展」は私の期待通りに夢踊る優雅な企画展であった。日本全国6か所の美術館を一年かけて巡回するというもので、昨年のBunkamuraザ・ミュージアム(東京)に続く2館目の開催である。

 

 リヒテンシュタインは世界で唯一君主の家名が国名になった、スイスとオーストリアに挟まれた小国である。欧州大貴族の宮廷空間を体感できるというわくわく感と同時に、私の関心は油彩画と陶磁器に施された、色使いと技巧を目のあたりにした時の自分が受けるショックのようなものはどれほどのものなのか味わってみたいという好奇心であった。

 

 今回の企画展のメインイメージとして飾られた油彩画は、磁器の花瓶の花と燭台、銀器が描かれていて、黒のバックに鮮やかな花々のコントラストがこの世のものとは思えない美しさであった。うまい言葉が浮かばない。強力な覚せい剤入りのカンフル注射を打たれたようなものである。そして不遜にも「あぁ、私が求めているビーズフラワーのすべてがここにある」と深く納得した。

 

 私がこの40年来ビーズフラワー制作に込めてきた気持ちは「ヨーロッパの香りにアンティークな雰囲気を漂わせる」ことであった。現実とはちょっと離れたもの、少し夢の世界へ入りましょうか、と誘うような風情ある花たち、そこに物語を育みながら作っている。

 

 ところが夢は夢のままでいられるはずはなく、共にある生活にも目を向けなくてはいけない。その一つは個展と称する作品発表のための作品作りにあるのだが、別の意味でとても心躍る作業ではある。年を重ねると個展を楽しみに待ってくれている友も多く、「このブローチは彼女に似合うかも」と想像しながら作っている。

 

 しかし、アクセサリーはともかくビーズの花は相変わらず知名度は低い。こんなに何十年も作り続け、発表し続けているのに……、とやり場のない寂しさに襲われることもある。そしていつも気づくのである。私の自己満足にすぎないのだと。飾る場所がない、あまり素敵すぎて、などの言葉を耳にするが、結局は生活環境に合っていないということなのだろう。

 

 以前テレビで見たある庭師さんの言葉を思い出した。その方はアメリカという異国の地で広大な日本庭園を作庭、管理しているという。心掛けていることは「日本文化にこだわり過ぎない」ことだとおっしゃる。なるほど、と思った。その庭は蹲いや松などがそれらしく配置されているのだが、背景は刈り込まれていない雑木林であり、散歩道がついていたりとかなりリラックス感がある。妙に緊張させないことも大切なのだなと感じた。それでいて日本庭園、日本文化をも感じとれる。無理してわからせようとしないところがいい感じ。

 

 四月下旬に東京で一年半ぶりの個展を控えていたが、コロナ騒動で涙を呑んで中止と決めた。ギャラリーのオーナーは私が接客しなくてもいいから作品だけ送って、と言うのだが私はとても納得できない。来客の顔を見て直接話がしたい。こういう風に部屋や玄関、水回りに飾るのはいかがでしょう、と作り手の気持ちを伝えたい。ヨーロッパの香りにアンティークな雰囲気は今の私たちの生活感覚の中にもどこか接点があるはずである。

 

 あえて私は“あいまいな共存”を意識しながら、なんだか素敵!という思いをみんなで共有したい。世界はフラットになっているという。

 

 

画像/大橋健志

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