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紺碧の将

新年とお酒とお年玉と

2023.01.06

 新春に似合うお酒はやはり日本酒だと思う。受け継がれてきた味のおせち料理を前にして、日本酒はまったりと口に合う。

 いつもはロンドンジンをロックでさっぱりと済ませる私だが、新年明けたばかりの緩やかな時間を共に愉しめる日本酒は唯一無二の仲間である。

 熱燗、ぬる燗、ちょうど丁度燗(これは私の造語である)と、家族に合わせていた時代もあったが、近年はほぼ冷やのままで味わっている。ワインに似たフルーティーな仕上がりの酒は燗をするのは勿体ない。大酒飲みにはいわゆる2級酒で充分、これがまた燗をすると酒の独特な香りというかにおいが立ち上る。

 私は雪国育ち、両親は大の酒好きでありそれに伴って宴会大好き人間、そして私たち三兄弟は酒豪(ちょっとオーバーかな)に育った。何しろいつも父のそばにちょこんと座っていた私は、時々父の好物の肴に在り付いていたいた。それが”からすみ”であったり、何と”このわた”も食していたのだから、今から思うと大人顔負けの食通だったようだ。これで”うに”が入ると幼くして「日本三大珍味」を味わっていたことになる。

 

 今年の正月はちょっと違った顔をのぞかせてくれた。私の弟が15年ぶりに我が家にやって来た。昨年クリスマスが終わった頃から日本の気象状況は本格的な西高東低の形を現し、日本海方面は連日雪が降りしきっていた。そんな中、大晦日にふらっと顔を見せる我が弟は、実に独身者の自由人である。

 私といえば大晦日の昼時は、猫の手も借りたいくらいの大忙し、煮しめ用に刻まれた里芋、蓮根、筍、人参、椎茸、コンニャク……がテーブルの上で賑々しい。なます用の大根、人参がスタンバイ、鍋には湯葉がコトコト音を立てながら油抜きをされている。私の十八番の「松前漬け」は三日前からスタンバイして味見を要求している。

 弟は適当な席に腰かけ、近くにあった”オールドパー”を開けながら、早くもくつろいでいる。夕方までには息子たちも帰宅するし、夫も仕事からご帰還だ。「やれやれ、今日一日はとてつもなく長いぞ」。除夜の鐘が鳴る頃、息子が恒例の「年越しそば」で〆てくれるはずなのだけど、その時がはるか遠くに感じられた。

 息子たちは叔父さんから「お年玉」なるものを頂いてやたらと恐縮している。70代にして独り者、子供もいないから、弟はせめて叔父の振る舞いをしたいのかもしれない。その気持ちは私には痛いほどよく解る。自由人で在りたいためなのか、若い頃には退職も離婚も経験済み、長い間学習塾を経営して塾長として生計を立ててきた。

 自由と孤独は表裏一体である。それは分かっているけれど、抜き差しならぬ体験や、思いを経て人間は気づかされるのである。それはそれでいいではないか、と今の私は思っている。「ああそうか」と自分が納得しないことには、どんなに口論したって平行線のままで終わる。このように素直に我が家へ立ち寄ってくれた弟を私は大歓迎である。

 

 そんなわけで元旦の朝餉はいつにも増して愉快な雰囲気に包まれた。酒を呑み酒をこよなく愛することが、それぞれの人生を柔らかく包んでいる。我が家には、夫からの新年恒例のプレゼントがある。それは息子たちへの”お年玉”配布である。小さい時からの習慣だから、もうかれこれ50年に及んでいる。今年は思いがけなく弟もその振る舞いに与かり「これはこれは……」と恐縮しながら、しばし不思議な感慨に浸っている様子であった。

 ささやかだけれど、こうして巡ってくる新年を私たちはしみじみと愛しんでいる。どうぞ平和で穏やかな地球が蘇りますように。

 

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