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紺碧の将

「個展」という名の避けがたき誘惑③ ─康子ワールドを探せ─

2022.12.16

 個展開催日に漕ぎ着けるまでは、一言では語れない紆余曲折がある。

 それがいざ当日となると様相は一変する。ドーンと花火が上ったのだからくよくよしたって始まらない。後は野となれ山となれ、みたいな感覚が私の胃袋辺りに居座っている。

 「さあ、一週間のお祭りを楽しもう!」「懐かしい友人に会える予感!」「私の愛しい作品たちの評判は如何に!」……。未知への期待と欲望とが私の心に渦巻いている。ステージが切り替わりハレの舞台へ躍り出た感がある。それほど個展初日は緊張するし特別な感慨がある。1年あるいは2年かけて準備してきた成果が試されるのだから。

 しかし毎回そうなのだが、私の中ではすでに評価は下されてしまっていて、しばし虚ろな気分の中をさまようことになる。期待と欲望と名づけて自分を鼓舞してはいるものの、「今回は無かったことにして欲しい」。と胃袋がしくしくと懇願している。この繰り返しを何十年続けてきたことかと、我が愚かさにつくづく嫌気がさしている。

 一週間も自分を鼓舞し続けることは辛いはずなのに、そこはお調子者の私、いつの間にか来場者に励まされて、自分を肯定していい気分になっている。確かに1本の花、1個のブローチは私が精魂込めて創り出したのだから出来栄えは納得しているつもりである。何がそんなに不満なの?私はいつも自問自答を繰り返している。

 

 1980年代の東京銀座は私の目には光り輝いて見えた。もともと成熟した街であるから、どこを切り取っても高揚感で満たされるわけだが、私が夢中になったのは商業ビルやデパートの入り口を飾るショウインドウであった。取り分け銀座4丁目の一角『和光』のウインドウ・ディスプレイは常に魅惑に溢れたものであった。確か月に1度の模様替えがなされていたと記憶しているが、そこには毎回躍動感あふれるドラマが息づいていた。色や空気で季節感を現し、さりげなく今が旬と思われる、バック、時計、アクセサリー、日常品等々がディスプレイされている。マネキンや背景の樹々はそれらの商品をドンピシャリのセンスでバックアップしている。毎回期待以上の風景を見せてもらい、そこに立つことがいつの間にか私の銀座行きの大きな目的となっていった。

 いつの頃だったか、随分夜も更けていていたけれど、そこのウインドウの中だけは煌々とライトが輝き、数名の若い男女が忙しく立ち働いていた。過去は取り崩され、新たな何かが構築されつつあった。夜が明ければ、そのガラスに囲まれた箱の中には真新しい風景が忽然と現れていることであろう。

 その頃受けた感動の数々は私の中に澱のように積ってゆき、息苦しくなるばかりであった。幸か不幸か、その頃軌道に乗り始めたビーズワークに私は活路を見出したようである。

 「ビーズという素材をワイヤーで操って康子ワールドを展開したい!」。積った想いの中からか弱い芽が発芽して、それでも雑草のごとく広がっていく年月があった。たまには女王様となるべき華やかな薔薇が誕生する。それを掲げて個展という舞台を経験し、また打ちひしがれてそれでも再出発を促す自分がいる。

 でも新しい発見と出会いは、行動している限りいつでもどこでも待ち受けていて、ひょっこりと顔を覗かせてくれる。

 

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