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紺碧の将

芭蕉との一体化

2022.07.25

 歳を重ねると好きになるもの、そのなかに芭蕉と大相撲があるようだ。私もその例にもれず、芭蕉も大相撲も好きになった。

 子供の頃から文学に親しんできた私にとって、芭蕉は嫌いではなかったが、さほど好きでもなかった。西行の歌には惹かれていたが、芭蕉の俳諧の妙味を味わうにはなにかが足りなかったようだ。

 芭蕉は、西行を敬慕し、西行の足跡をたどりながら名句を多数残している。目の前の風景を実写しながら、表現は気宇壮大。磨きに磨き抜かれた言葉の力をまざまざと思い知らせてくれる。

 ある日、「そうだ、芭蕉の句を暗唱しよう」と思い立って、風呂で暗唱を始めた。バスタイムを使っての暗唱は、以前から続けていたことである。本ブログ2010年2月5日付でも「風呂で西行を詠む」と題し、こんな記事を書いている。https://www.compass-point.jp/blog/612/

 西行のあとは、良寛にもトライしている(が、私には合わなかったようで、短期間でやめた)。

 まず手始めに、『奥の細道』に収録された50句から始めた。毎朝のコーヒータイムでは、『奥の細道』をペンで書写しているから、どんな状況で句を詠んだか、あるいていどはイメージできる。湯船に浸かりながら、芭蕉の気持ちになって句を諳んじると、目の前にそのときの情景が現れてくるような気になる。

 次いで、自分で選んだ句を50句をひとまとめにし、第2グループとした。その2つのグループを交互に諳んじる。ほどなくして、なにも考えずとも、言葉が勝手に口をついて出てくるようになった。

 いまは第3グループの50句を選び、覚えている途中だ。エッセイ集『葉っぱは見えるが、根っこは見えない』でも書いたが、歳を重ねるごとに記憶力が増しているという実感がある。

 ……と、前置きが長くなってしまった。

 岐阜は芭蕉との関係が深い。なにしろ『奥の細道』のむすびの地は、大垣市である。そこでむすびの句「蛤のふたみにわかれ行秋ぞ」を詠んで、芭蕉は舟に乗って伊勢へ向かった。

 そんなわけで大垣市には「奥の細道むすびの地記念館」がある。『奥の細道』の足跡をたどりながら、さまざまな資料を展示している。

 また、金華山の麓の街には、約1ヶ月も滞在した妙正寺がある。

 よほど居心地がよかったのだろう。旅を住処とする芭蕉にとって、1ヶ月もの間、ひとつの場所に留まっているのは例外的だ。

 そこで詠んだ句がある。

 ――やどりせむあかざの杖になる日まで

(アカザの木が杖となる日まで(長く)この地に留まりたいものだ)

 芭蕉の句を覚え始めてから、得た感懐がある。幸せ度が増したということ。旅に出ていなくても旅したような気分になれるし、練り込まれた言葉が自分の血肉と一体化しているような感覚を覚えている。

 

大垣市内を流れる水門川。芭蕉は『奥の細道』を完結させたあと、このあたりから水路で伊勢へ向かったのか。当時、使われていたような舟が係留されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妙正寺にある句碑

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妙正寺の裏手にある水路

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(220725 第1137回)

 

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