主君を諌めようとする志は一番槍に勝る
忠言や苦言は耳に痛い。幼い子供でさえ、自分よりも小さい子から注意されるのは嫌なのだから、知識も見識もあると自覚していて、地位のある人物なら、なおさら不愉快だろう。
山本周五郎の小説『さぶ』に、興味深いくだりがある。ある高明な心学教師が、自分が教えている下賤な人足が寄場で書の手習をしていることに腹を立て、奉行に異議を唱えた。その人足は仲間からの信頼も厚く、人気もあり、書の腕も師範なみに通じていたのだが、上の地位にある者たちはそのことには目を背け、身分の違いとくだらないプライドを楯に、人足に厳しく当たった。
「人間はいかに忍耐が大切か」などと処世術を滔々と説いて聞かせていた人物が、忍耐の「に」の字もなかったわけである。度量の大きい人物であれば、そんな恥ずかしいことはしない。
比べるまでもないが、徳川家康があれほどの偉業を成し遂げたのは、周りの意見をよく聞いたからだ。三方ヶ原の戦いでの惨敗の経験から、自分だけでなく、家臣たちにも「主君を諌めようとする志は一番槍に勝る」と言って聞かせたという。
厳しい意見は成長を助ける。褒められたり、いいことしか言われなくなったら「裸の王様」一歩手前と心得るべきだ。かのアメリカ大統領も転落の瀬戸際だろう。
自分を高めたいのなら、どんな意見にも謙虚に耳を傾けることを忘れてはならない。……と自戒を込めて言っておこう。
(260730 第900回)
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