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紺碧の将

クラシックもポップソングも歌いこなす、自分大好きな歌姫

file.066『ラ・ルーナ』サラ・ブライトマン

 4オクターブもの声域(最高音はF6=hihiF)を持ち、空を飛んだり際どい衣装などで視覚的にも楽しませてくれるサラ・ブライトマンは、ひとつの様式をつくりあげた。「クラシカル・クロスオーバー」とも言われるが、クラシックのエッセンスとポップソングのエッセンスを独自のスタイルで融合させた。

 1960年生まれのサラは、3歳からバレエやクラシック音楽を習い始め、11歳で寄宿制の学校に入学し、ジャズと演技を学んだ。加えて、思春期に聴いた1970年代のブリティッシュ・ロックに大きく影響され、彼女の幅広い音楽的素養は涵養された。

 そういう背景もあって、サラの選曲は、プッチーニやベートーヴェンがあるかと思えば、ビージーズやサイモン&ガーファンクルがあるというように、ジャンルの垣根がない。同じ視線でさまざまな音楽をとらえている。風通しのいい感性だ。

 13歳のとき、ミュージカルで劇場デビューを果たし、21歳で新作ミュージカルの『キャッツ』のジェミマ役を射止めた。その後、『オペラ座の怪人』のクリスティーヌ・ダーエ役で大成功し、その名を世界に知らしめることとなった。

 転機となったのは、フランク・ピーターソンをプロデューサーに迎え、1993年に発表したアルバム『Dive』。深海をテーマにしたアルバムだが、それ以降、テーマ性を際立たせながら、そのテーマに合わせた舞台を演出するなど、「聴かせて見せる」スタイルが顕著になっていく。『Dive』の後『エデン(Eden)』(1998年)、『ラ・ルーナ(La Luna)』(2000年)、『ハレム(Harem)』(2003年)、『神々のシンフォニー(Symphony)』と、テーマ性は一作ごとに進化していった。

 以上の4作はいずれも甲乙つけがたく、私はそれぞれのテーマに合わせたコンサートを見ているが、もっとも贔屓にしているのは月をテーマにした『ラ・ルーナ』である。
 月は日本人にとって風情に富んだものの、西洋人にとってはいささか趣が異なるようだ。不吉なものというイメージさえあるという。

 サラ・ブライトマンのキャラから言えば、むしろ太陽の方が合っていると思うが、そういう人が月を表現するからこそ、ジメジメしていなくていい。健康的でありがなら、妖しさも漂う。

 選曲がユニークだ。エレクトリカルなサウンドで月をイメージさせる「ラ・ルーネ(La Lune)」で幕を開ける。すぐさまボム・ザ・ベースの「ウィンター・イン・ジュライ(Winter in July)」へと続く。この曲はメロディーの魅力もさることながら、ステージではサラが観客に背を向けて両の腕をヒラヒラを揺らせるのが印象的だった。

 4曲目の「フィリオ・ペルドゥート(Figlio Perduto)」は、なんとベートーヴェンの交響曲第7番の第2楽章に詞をつけたもの。ベートーヴェンの曲がこんなにもメランコリックな曲調になるとは驚き。

 8曲目の「ここは素晴らしい場所(How Fair This Place)」はラフマニノフの曲に詞をつけたもの。サラはクラシックを学んでいたころからラフマニノフの曲を愛好していたという。

 15曲目のタイトル・ナンバー「ラ・ルーナ(La Luna)」は、ドヴォルザークの歌劇『ルサルカ』のアリア。エンニオ・モリコーネの「ラ・カリッファ(La Califfa)」とともに、本アルバムの中枢といっていい。

 ポップソングではサイモン&ガーファンクルの「スカボロー・フェア(Scarborough Fair)」、プロコル・ハルムの「青い影(A Winter Shade Of Pale)」、ビージーズの「若葉のころ(First Of May)」が選ばれている。シークレット・トラックとして「ムーン・リヴァー(Moon River)」が収録されているのはご愛嬌。

 クラシックのソプラノ歌手並みの歌唱力と愛嬌ある表現力、そしていくぶん露出狂的なステージ衣装などが相まって、サラ独特の世界を構築している。

 ここまで自分の世界に没頭できれば、あっぱれである。

 

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