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好きなことを見つけた幸せな姿

2012.09.15

 夏になると、ある変化が現れる。日本酒とクラシックを欲しなくなることだ。日本酒を欲しないというのは、なんとなくわかる。やっぱり、夏は日本酒よりもビールだ。
 では、クラシックを欲しないのはなぜ? 
 わからない。もしかすると、夏は感覚がぶつ切りになるのかもしれない。ぶつ切りのところに、細かい表現の綾はピッタリ収まらない。そういえば、クラシックの作曲家は大半寒い国に生まれている。ハワイやアフリカでクラシックが人気だとは聞かないのもうなずける話だ。
 それでも起き抜けの一枚はクラシックと決まっている。もちろん、暗い曲は避ける。朝からシューベルトを聴こうとは思わない。
 2枚目からはほぼレゲエかロックだ。今年の夏はボブ・マーリィをよく聴いた。今までに何千回となく聴いているはずなのに、まったく色あせない。そして、夜は遅い時間になればなるほどジャズである。取材で柳澤管楽器を訪れたこともあって、今年の夏はサックスものをよく聴いた。
 ところが、日が詰まってコオロギの声が鳴り出す頃になると、とたんにクラシックを聴きたくなるから不思議だ。先日はさっそくサントリーホールでシベリウスのヴァイオリン協奏曲とチャイコフスキーのピアノ協奏曲を堪能した。8月だったとしたらとても聴く気になれなかったはずなのに、ほんとうに不思議なものだ。凍てつく地で作られたそれら2曲が、すんなりと細胞に入ってくるのである。
 その2日後、なんとZAZ(ザーズと読む)のライブを聴くことができた。ZAZの素晴らしさは7月18日の本ブログでも紹介しているが、エディット・ピアフの再来と言われているフランス人の女性ヴォーカリストだ。
 場所は、赤坂BLITZ。こんなにノリにのったライブは久しぶりのこと。赤坂BLITZはライブ専用の会場なので、ほとんどが立ち席。つまり、人がギューッと凝縮し、ステージに接近して聴く。まさに、ライブ! ビールを片手に、迫力のある音を全身で受け止め、思うままに反応していい。気がつくと雄叫びをあげている始末だ。
 彼女は、歌うことが楽しくて楽しくて仕方がないといった様子だった。独特のハスキーヴォイスと硬軟織り交ぜた多彩な表現力、底抜けの笑顔、雑草のようなたくましさとしなやかさ。そう、ZAZは雑草のZAでもある。おそらく、路上で芸を磨いたのだろう。エディット・ピアフの再来と言われてはいるが、じつはオリジナリティの塊なのだ。
 右手の掌をラッパ状に丸め、親指と人差し指の間から声を発して、出口で音を拾うという「てのひらラッパ」の技術にはおそれいった。CDで聴いたときは、明らかになんらかの楽器と思っていたが、じつは掌だったということがライブではっきりわかった。ビブラートなんかもしっかり効かせながら 自分の声でラッパのような音を出してしまうのだ。あのような独特の技術も、好きで歌っているうちに身につけたのだろう。30代前半の若さで、すでに使い込んだ職人の道具さながら、年代モノの歌声であった。
 バックの面々もよかった。ドラム、ウッドベース、2台のギター、そしてキーボードという編成なのだが、まるで自分たちの娘のようにZAZを温かく包みこんでいる。「さあ、好きなように歌っていいよ」という雰囲気なのだ。彼女は、そのなかで自由奔放に、そして茶目っ気たっぷりにふるまっていた。
 会場を去るとき、体中の細胞が躍動しているのがわかった。体というのは素直だ。いい体験をすれば調子が良くなるし、イヤな体験をすれば体調不良になる。
――自分にとって愉しい時間を増やす努力をしている。――
 コンパス・ポイント30ヶ条のひとつである。
 他人にとって愉しいことと自分にとって愉しいことは必ずしも一致しない。それを見極め、愉しい時間を増やす努力をすることが大切だ。なぜなら、世の中というものは(特に現代社会は)、人をつまらなくさせようという力が渦まいているから。
(第367回 写真は、今年6月に赤坂BLITZで行われたライブの1シーン YouTubeより)

Profile

高久多美男

高久 多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

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