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紺碧の将

死してますます輝く功績

2022.07.09

 安倍晋三元首相が卑劣漢に銃撃され心肺停止という報に接したとき、とっさに「ほんとうにそんなことが起こるのか?」と思った。今年2月、ロシアがウクライナに武力侵攻したと知ったときもそうだったが、「自分が生きているうちにこんなことは起こり得ない」と思い込んでいたことが、なんの根拠のない絵空事だということを思い知らされた。

 世の中には想像を絶するほど卑劣な人間がいる。それを忘れてはいけない。次は自分、あるいは自分が大切にしている人の身が危ないという危機意識をもつことが、生き物として当前だということにもあらためて気づかされた。路上で狙撃されることはないだろうが、「だれでもいいから殺したかった」という標的にならないとは言い切れない。

 

 安倍さんの総理大臣としての在籍日数は桂太郎を抜いて歴代1位。政治に100点満点はないが、国への貢献度はきわめて大きかった。持病を抱えながら、体を張ってこの国のために力を尽くしたことに感謝の念が膨れ上がるばかりだ。

 トランプ氏が大統領になるや、すぐに渡米し信頼関係をつくったことをはじめ、「地球儀を俯瞰する外交」を掲げ、80ヶ国をまわり、各国の首脳と厚い信頼関係を築いたことはわが国に多大なメリットをもたらした。安倍さんが提唱した「自由で開かれたインド太平洋」はインド洋と太平洋地域の民主主義国家の共通の理念となった。また、自由、民主主義、法の支配という共通の価値観をもとに定期的に開かれていた日米豪印の会合は、いま「Quad」(クアッド)となって結実している。宿願の憲法改正は実現できなかったが、安全保障関連の法整備にも大きな成果をあげた。今後、あれほどずば抜けた功績を残す政治家は、現れないかもしれない。

 一方で、法政大学の山口二郎のように、今回の事件を知って、ほくそえんでいる(であろう)人がたくさんいることを思うと、腹立たしくてならない。山口二郎はデモ演説で「安倍、おまえをたたき斬ってやりたい!」と叫んだ。そんな卑劣な男を飼っている法政大学って、いったいなんなのだ? 

 そんな過激な言動に触発されたのか、SNS上では、安倍さんには何を言っても許されると勘違いし、言葉汚くののしる批判が横行していたという。中国やロシアのような言論弾圧は論外だが、なんでもかんでも好きなことを書いていいわけではない。一定の責任が伴うことを肝に銘じるべきだ。本欄でたびたび書いているが、自分では何もせず、ただ批判だけしている人たちを、私は激しく憎む。狙撃犯もそういう輩のうちの一人であろう。

 

 安倍さんとは2度ごいっしょしたことがある。1度目は都内の和食料理店で、半円形のカウンターを5人ほどで囲み、和やかに語り合った。偉ぶったところがみじんもなく、洗練され、紳士的だった。安倍さんの著書『美しい国へ』を持参し、とても共感できるというようなことを伝えると、少年のように目を輝かせながら丁寧な筆跡でサインをしてくれた。

 2度目は『Japanist』での取材。約1時間、真摯に持論を語ってくれた。記事ができた後、『Japanist』のサポーターになっていただきたいとお願いすると、二つ返事で引き受けてくれた。

 安倍さんの死はきわめて残念だが、皮肉にも、狙撃されて命を落としたことにより、大きな功績がさらに大きくなって歴史にその名を刻むことになるだろう。それがせめてもの慰めである。

 ベートーヴェンの第九を聴きながら、冥福を祈っている。

(220709 第1136回 写真は『Japanist』で取材したときの安倍さん)

 

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