現在こそ無限の選択の中で選ばれた唯一のものであり、かけがえのないものである。
哲学者・田辺元の『歴史的現実』より抜粋。上掲の言葉の後、「したがってわれわれは、この現在に真剣に取り組む以外に生きる手立てはない」と続く。
当たり前のことを言っているだけではないかと思うのは早計というものだ。こういう考え方で日常を送ることは存外難しい。なぜなら、本サイトのコラムでもたびたび書いているように、人間はとてつもなく大きな脳を持ってしまった生き物だからである。考えるなと言われても、あれこれ考えてしまう。これまでに起きたことに後悔し、まだ訪れてもいないことを憂慮する。もちろん、危機を予測して事前に対処することは大切なことだが、度を超えている。「即今、当處、自己」に徹して生きていくことがいかに難しいか。
田辺の考え方は、禅の「因果一如」やドイツの哲学者マルティン・ハイデガーにも通ずる。つまり、これまで生きてきたなかで下したあらゆる決断の集積が「現在の自分」ということである。それはそのまま「今、下した決断が未来を決定する」ということにもつながる。
元首相・大平正芳は若い時分から田辺元の本を愛読し、その思想を自著『永遠の今』に集約させた。言い換えれば「明日は御座無く候」である。
たった今、死んだとして悔いが残るか。日々、そのことを意識していたい。
(260529 第893回)
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