死ぬまでに読むべき300冊の本
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紺碧の将

オン・オフを作るな

file.172『禅とジブリ』鈴木敏夫 淡交社

 

 禅に惹かれ、スタジオ・ジブリの作品をほとんど見ている者にとって見過ごしにはできないタイトルである。しかもジブリのプロデューサー鈴木敏夫氏と対談する3人の禅僧は細川晋輔氏(龍雲寺住職)、横田南嶺氏(臨済宗円覚寺派管長)、玄侑宗久氏(作家・福聚寺住職)。舞台と役者は揃っている。

 禅問答のようでわからない、とはよく聞かれる言葉。ということは、禅は得体の知れない考え方ともいえる。

 なぜ得体が知れないのか。それはあまりにも現代人の常識が本質とかけ離れているからだろう。本質的には禅の考え方は至極まっとうである。不思議でもなんでもない。しかし、現代人はそうは考えない。私もときどき「不思議」と感じてしまう。そこに現代人の心の奥底に巣食っている病根を見てとることができる。

 その点、本書はわかりやすく「禅とはなにか」が語られている。読めば、なるほどそういうことかと合点がいく。ただし、実行できるかどうかはわからない。それほどに「普通のこと」をするのは難しいということか。

 

 鈴木さんと細川さんの対談で、わが意を得たりという発言があった。細川さんが、鈴木さんの仕事場を見ていると楽しみにあふれている気がするが、どうしたらそうなれるのかという問いに対する答えである。

 ――僕に言えるのは「オン・オフを作るな」ということでしょうか。「頑張るとき」と「解放されるとき」、そうやって境界線を引くから疲れるんじゃないですか。いつも同じ気持ちでいられたほうがいいと思うんですよ。

 私も『葉っぱは見えるが根っこは見えない』のなかで「オン・オフ不二」ということを書いているが、まさしく同感である。

 しかし、世の中はワークライフバランスとかなんとか言って、オンとオフをきっちり分けようとする方向に行っている。だから日曜日の夜になると憂鬱になる人が増えているのではないだろうか。

 禅は融通無碍。心を軽やかに、そして自在にするための思考法でもある。本書で玄侑宗久さんは「明日できることは今日するな」という考え方があってもいいと言っている。これも世の常識と真逆。『老子』は型にはまらないことを「器ならず」というが、それに近いとも思える。

 サクッと読める本なのにじわじわと心に沁み入る。そういう本が座右の書になる。

 

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