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美し人
ココロバエ

さらば左馬之助

2013.05.21

緑の御苑 引っ越しをした。とはいっても、新宿御苑の周りを4分の1周移動しただけだが。

 世の定めであるが、得たものもあれば失ったものもある。

 失ったものの最たるものは、眺望である。右写真の風景はこれまでにも何度か紹介したことがあるが、左馬之助(ケヤキ)を中心とした窓外の風景である。ちなみに、左馬之助を「ひだりうまのすけ」と読んだ賢者がいたが、正しくは「さまのすけ」と読む。

 朝起きるとすぐにベランダに出て、深呼吸や屈伸やスクワットをする。前夜に雨が降ったときの匂いはことのほか香しく、うっとりしてしまう。空から聞こえてくるウグイスなど鳥のなきごえもなんともいえない。今まで、この杜にどれほど癒され、インスピレーションをもらったことか。原稿に煮詰まったときは、彼らの姿を無心で眺めているだけで、さまざまなアイデアを授けてもらうことができた。

 季節ごとに変わる姿も「お見事!」というほかない。落葉樹ならではの変化だ。

 冬は樹勢がはっきりわかる。その形から、いろいろとイメージをめぐらすのも密かな楽しみだった。木の枝の隙間から新宿の夜景が見えるのもいい。

 やがて、春の訪れとともに、緑の小さな葉が芽吹いてくる。見る見る大きくなり、若葉の季節到来。この星の創造力に感嘆する季節だ。

窓外の雪景色 盛りを過ぎ、徐々に葉が色づいて、ひとつまたひとつと落ちていく様子も心に迫ってくる。

 ところで、その窓から雪景色を見てみたいと思っていたが、残念ながら叶わなかった。右写真が精一杯というところだ。ちなみに、この写真に写っているケヤキは金太郎といい、祖父の名前から拝借した。

 

 「ええい! タミオォ! 勝手にワシの名前を使いおって」

 「あれれ? ジジ様、いつのまにやら……」

 「体は死んでも魂はなくならんということがまだわからないのか!」

 「わかっております。いちおう、アタマでは」

 「この、うつけ者めが! おまえの行動は一部始終見ておるぞ」

 「ええ……(冷や汗)」

 「とにかく、支那と朝鮮に行ってはならぬという遺言は守っておるようじゃな」

 「それはもちろんですとも」

 「どうだ、ジジが言った通りだろ。今、毎日のように領海侵犯をされているが、平和ボケの日本人はほとんど関心すらない。新聞にも小さな記事だけ。やがて、本格的な侵攻が始まるだろう。そうなっても、今の憲法では手も足も出せまい。敵が怖いのは背後にいる米軍だけだ。それが機能しないよう巧妙に分断された後、どのような事態になるかわかっていおるのか!」

 「だからこそ、憲法改正は喫緊の課題だと……」

 「とにかく、もう議論をしている時間はないと心得よ。強行策でもなんでもいいから、国民の生命と財産を守れる状態にしなさい」

 「あのー、じじ様。僕は政治家ではないのですが……」

 「そんなことはわかっている。政治家ではないから関係ないというその言いぐさがダメだと言っておるのだ」

 「あのー、あんまり怒ると、また血圧が……」

夕方の御苑

 というようなやりとりもときどきあったかもしれないが、たいていは穏やかな時間だった。

 さらば左馬之助、そして金太郎。

(130521 第425回 写真は窓外の新宿御苑3景)

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Profile

髙久多美男

髙久多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

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