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見えるものの先にある見えないものを見る

2011.10.11

 先日、丸の内にある日本工業倶楽部会館という由緒ある建物で、不肖・私の講演をさせていただいた。

 テーマは、「見えるものの先にある見えないものを見る力」。

 この場合の「見えないもの」とは、それぞれ自分はなぜ生まれてきたのか、なぜ生きているのか、自分という存在は何なのか、自分の役割とは何か、何をすれば最期に満足できるのかといった、本質的で遠大なテーマに対する各々の答えをさす。もちろん、それらは誰の目にも見えないし本人にも見えない。答えはひとつとは限らないし、永遠にわからないかもしれない。

 しかし、それを意識しながら生きるのか、あるいは意識せずに日々の雑事に追われて生きるのかでは、長い間に大きなちがいになるということを冒頭に申し上げた。まして、来ていただいた方のほとんどは会社経営者。政治家と企業家は社会に対する影響力が強いポジションである。そういったことを意識するのは、ある意味、企業家の責務であると思っている(と、偉そうなことを言ったが、そう考え始めたのはたかだか10年くらい前のことである)。

 どうしてそんなことを思うのかと言えば、今まで約25年間会社経営をしてきたが、心身ともにすこぶる健やかに過ごすことができたからだ。病欠は一回もなく、朝はわくわくしながら目覚め、その日何をするのか基本的に自由という日々をおくっている。それは偶然のたまものではない。そうなろうと意識したからこそ、できたのである。私は事業者として成功を収めたとは思っていないし、まだまだ上り坂の途中だと思っている。しかしながら、大きな成功を収めたにもかかわらず、それに反比例するように空虚な人生をおくっている人たちを少なからず見ているので、どうしてもそのような問いをせずにはいられないのだ。

 

 さて、そのような本源的なテーマに取り組むうえで、不可欠なことといえば、自分のアイデンティティーをきちんと確立することであろう。つまり、日本とは何か、日本人とは何かということ。それがなければ、どんな理念も砂上の楼閣。根無し草は多くの共感を得られない。まして、外国人からリスペクトされることはないだろう。

 そういうこともあって、日本の特質について半分以上の時間を割いた。

 残りは、本質的思考法に関する話であった。これは今までの半生、少年時代から読んだ膨大な書物、そして今師事している田口佳史先生の教えによるところが大きい。

 質疑応答と合わせ、1時間半の持ち時間だったが、私の能力不足もあって、伝えたいことの半分も伝えられなかったという実感がある。それでも多くの方に満足していただいたようで、いくぶん安堵している。なにはともあれ、貴重な時間を割いて私のような者の話を聞きたいという方がおられるのだから、少しでも役にたたなかったら自己満足以外のなにものでもない。

 

 ところで、日本工業倶楽部会館は、一般ピープルが立ち入ることのできない “もったいぶった” 建物だが、それだけの価値はある。新しい建物にはない、厳かな空気がただよっているのだ。天井は高く、シャンデリアがいかめしく輝いている。広い空間に人の気配がほとんどないというのもいい。静謐であることが、そのまま格調につながっている。

http://www.kogyoclub.or.jp/

(111011 第287回 写真は講演前の拙者。久しぶりに和装であった)

 

 

 

 

Profile

高久多美男

高久 多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

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