里山に愛を注ぐ写真家の感性豊かな世界

ネイチャー写真家として、今森光彦はかなり地味である。彼は、猛獣が獲物を仕留める瞬間や生態が謎だらけの生き物の正体を暴くような決定的瞬間など、多くのネイチャー写真家が狙う写真にはとんと興味がないようだ。今森氏の被写体は里山なのだから、派手なスーパーショットに恵まれないのは当然。しかし、〝だからこそ〟彼独自の個性が際立っているといえる。
それを可能にしたのは、今森氏が故郷(滋賀県大津市)の近くに約2ヘクタールの雑木林を買い取り、仲間たちと手入れをしていることだ。知り尽くした土地の微妙な移り変わりを、誰よりも丹念に撮ることができる。
今森氏はもともとさまざまな生き物が好きだったというが、彼を里山のネイチャー写真家にした決定的な要因は、20歳の時、初めての海外旅行でインドネシアのスラウェシ島やバリ島に行き、そこで棚田に出会い、その神々しい風景に感動したことだった。こんな所は日本にないだろうと思ったという。
ところが、である。住まいから車で少し行ったところに美しい棚田や里山があったことに気づく。琵琶湖や比良山を一望できる場所に立って、涙をこらえることができなかったという。
今森さんには特別に愛着のある木があった。滋賀県マキノ町(現・高島市)に鎮座する、〝やまおやじ〟という異名をもつクヌギの大木である(本書の表紙写真)。ところが、その雑木林を乗馬クラブに開発するため、〝やまおやじ〟を含め、数百本の木が伐採されることになった。彼は雑木林の持ち主に開発を中止してほしいと頼むが、もちろん聞いてもらえるはずがない。そこで、懸命にお金をかき集め、その雑木林を購入したのである。今森さんは、切っても切っても萌えぐ木が豊かに生きる雑木林を「萌木の国」と名付けた。
本書は、見開き単位でカラー写真とモノクロページ(文章)が交互に展開する構成となっている(余談ながら、私が編集を手掛けた『四季彩の杜』でも同じ手法を用いている。写真と文章の組み合わせには最適である)。
本書の魅力のひとつは、写真を眺めるだけでよし、今森氏の温かい文章を気軽に読むもよし、と本を手にする者に圧力を加えないところ。彼はしばしば「感性の栄養」という表現を用いるが、まずは自ら現地で体験することが第一、次に本書のようなすぐれた本を手にとって疑似体験しながら想像を膨らませることが「感性の栄養」を涵養することにつながるのではないか。
無性に大津の仰木(おおぎ)地区や高島のマキノに行ってみたくなった。
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