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紺碧の将

道中観察記

2020.08.04

 車を手放してから早9ヶ月。日常の移動は徒歩か電車。自転車はあるにはあるが、歩行者が多い都内では使いづらいし危険だ。よほどのことがない限りタクシーは使わない。

 道中、さまざまな人たちを目にする。人間模様と言うと大げさだが、ビッグデータより直感的に現代の風潮がわかったりする。

 傍若無人な人、周りを気遣う人、だらしない人、姿勢が美しい人、流行に敏感な人、悩みごとがありそうな人、イライラしている人……なんでもひと目でわかってしまう。

 電車のなかで立ったまま食べている人、化粧に余念のない人、スマホのゲームに夢中になっている人、無防備に眠っている人、勉強している人、恋人とイチャイチャしている人……いろいろだ。

 相変わらず目につくのは、駅の構内など雑踏でも平気で歩きスマホをしている人。ぶつかりそうになって何度「まっすぐ前見て歩け!」と叱りつけたことか。それでも大半はゾンビのように惚けた表情のまま通り過ぎる。世も末だ。なかには自転車に乗ってスマホに見入っている人がいる。いずれ事故を起こすのだろう。事件が起こらないと、法は変わらない。

 私はけっこう歩くスピードが早いと自認しているが、ときどき横をサーッと追い越していく女性がいる。忍びの者かと思うが、見たところふつうの人だ。最近の女性は背も高いし、歩くのも早い。だいたい、のそのそ歩いているのは地上在住者だ(私もそうだったが)。とにかく東京の歩行者は、なにがそんなに悔しいのかというくらい早い。これは昔からそうだったようで、明治維新のあと、薩摩出身の旧士族が山岡鉄舟に「あのとき、おはんのあとを追ったのだが、追いつくことができなかったでごわす」と言ったら、鉄舟は「田舎もんは歩くのが遅い。江戸っ子に追いつけるはずがないではないか」と答えたという。

 最近、ガニ股の若い女性と内股の若い男性が目につくが、これも時代を象徴しているのだろうか。特にガニ股の女性には幻滅する。足を斜め前に突き出し、両腕もそれに沿って外向きに振っている。百年の恋も一瞬にして冷めるというものだ。洒落た洋服を身につけ、せっせとエステ通いしても、姿勢が悪かったら差し引きマイナスだ。

 電車の座席に座るときのマナーは、東京がピカイチだろう。京都で何度も目にしたが、詰めて座らないために、7人用の長シートに5人くらいしか座れない。立っている人がいるのを見ても平気だ。そのことを京都在住の人に言うと、「今までそんなこと気にしたこともなかった」と言う。いつも混雑している東京だからこそ座り方のマナーができたのだろう。そういえば、運転のマナーも東京が群を抜いている。2本の道路が合流するときも、必ず交互に進む。暗黙の了解なのだ。宇都宮に住んでいたころ、ここの運転マナーは最悪だと思ったが、名古屋も京都も広島もさほど変わらない。なぜ、地方のドライバーは意地悪なのか。これは考察に値するテーマかも。

 最近の〝コロナ感染者狩り〟にも言えるが、狭いコミュニティーならではの負の面がある。おおらかな田舎暮らしを夢見て移住したものの、濃密な人間関係に疲れて都会に帰る人も多いと聞く。以前、沖縄で取材したとき、東京から沖縄に移住したカメラマンは、家にカギをかけたことで周りから文句を言われたという。俺たちを信用していないのか、と。濃密な人間関係を心地良いと感じる人がいれば、息が詰まると感じる人もいる。私は後者だ。

 道々にはいろんな風景がある。じっと観察すれば、一冊くらい本が書けるかも。

 

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https://www.umashi-bito.or.jp/column/

(200804 第1012回 写真はエアロコンセプトのカバンをリュックにしている人。いろんな人がいるものだ)

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