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紺碧の将

この難局を好機ととらえよう

2020.05.02

 外出自粛が続き、さまざまな社会現象が露呈されている。これを機に、自分の生き方を根本的に見つめ直し、新たな地平へと歩み出す人もいれば、「ガマンしてもストレスになっちゃうので」とか「関係ないので」などと言ってパチンコ店の行列に並ぶ人もいる。いつの時代もそうだが、人間を含め生き物は「2:6:2」の法則があるようだ。みんなの意識が高いわけでもなく、みんながどうしようもない存在であるわけでもない。要は、どこに属するのかを自分で選ぶこと。その結果、未来において起こることは当人の責任である。

 私は外出自粛が続いても、ほとんどストレスを感じていない。もちろん、取材が中止になったり、打ち合わせができなくなるなど、多くの弊害があるが、それを今さら言っても詮ないこと。現実を粛々と受け入れ、こういう状況下でも充実した日々をおくろうと思っている。

 自宅にいながらにしてできること。その最たるものは、学びだろう。かねがね「遊びと学びと仕事は皆同じ」と唱えているくらいだから、学べる時間がたっぷりある状況が嫌なはずがない。

 しかも、なにを学んでもいい。選び放題だ。

 

 ときどき明治神宮を散歩をする。大鳥居のところから「明治神宮鎮座100年」をわかりやすく解説した特大パネルが並んでいる。絵画は正徳記念絵画館で見られるものだが、あらためて思うことは、日本人は学ぶに貪欲な民族だということ。それを証明するのは、廃藩置県を断行して世が混乱しているさなか、政府の中枢メンバーが大挙して欧米へ視察に行ったことだ。

 岩倉使節団である。右上の絵は、使節団が出航するときの様子で、ボートの中央に立つのが岩倉具視、左が大久保利通、右が木戸孝允である。使節団の目的は、条約を結んでいる各国を訪問し元首に国書を提出すること、幕末に欧米列強と結ばれた不平等条約の改正のための予備交渉、そして西洋文明の調査であったが、明治4年11月から明治6年9月まで、2年近くもの時間を費やしている。留守政府が朝鮮出兵を含む征韓論に傾いているから早く帰って来いとの連絡がなければ、もっと長引いていたにちがいない。

 使節団のルートは右の図のとおり。岩倉具視をリーダーとし、政府首脳陣や留学生を含む総勢107名で構成された。のちに津田塾大学を創設する津田梅子も含まれていたが、当時、彼女はなんと満6歳だった。

 岩倉使節団の影響は大きかった。とりわけ重大だったのは、欧米諸国の科学技術の進歩を目の当たりにした組と留守政府組との断裂だった。それが明治六年の政変に発展し、西郷はじめ板垣退助、江藤新平、後藤象二郎、副島種臣ら留守政府の中枢がこぞって明治政府を辞める。その後、旧士族などの反撥などとも相まって国内各地で反乱が続き、明治10年の西南の役まで続くことになる。

 実際に西欧列強の実力を知った人たちからすれば、悠長な改革など論外だったろう。さまざまな弊害があるにしても、一気に殖産興業を図り、軍備を整えなければ、必ずや列強の餌食になってしまうという強烈な危機感を抱いていたはずだ。

 当時の明治政府の方針に対して、「変革が急進的過ぎた」という批判もある。こう考えてはどうだろう?

 歩く方向を変えなければ目的地にたどり着かないとわかっていながら、ゆるやかな曲がり道を進む人はいまい。時間も歩く距離も長くなってしまうし、「この道でいいのか」と疑問に思い、後ろを振り返れば、来た道が見えるため、戻りたくなってしまう。しかし、えいやっ、とばかり直角に曲がれば、あとは先へ進むしかない。

 それほど当時の状況は逼迫していた。ただし、ある程度、改革が進んだのち、急進的な変革によって生じた弊害を見直す作業は必要だった。

 しかし、なんといえばいいのか、われわれ日本人は一度決まったことを見直すということが苦手な民族でもある。明治憲法の不備が昭和の軍部の台頭を招いたことが明らかなように、現憲法の不備をそのまま放置することがいいとはとても思えない。憲法の草案を書いたチャールズ・ケーディスは、のちに日本人が自主憲法を作らなかったことに驚いている。あのような理想主義のままにしておくはずはないと思っていたようだが、日本人は一度決まったことを変えたがらない。憲法を見直そうと言っただけで「戦争反対」と、まるで見当違いの反対意見が噴出する。「カラスは白い」と強弁している現状は、子供が見ても大ウソつきと映るだろう。

 この時期こそ学ぶことだというテーマからずいぶんそれてしまったが、要は自分の好きなテーマを見つけ、それをとことん学べば、半年後、1年後の自分はどう変わっているか、それを想像しながらトライしてみるのもいいのでは? という提言でもあった。

 この難局を好機ととらえよう。

 

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(200502 第989回)

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