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紺碧の将

こころの表れ方

2020.03.19

 最寄り駅の近辺をときどきゴミ拾いするという知人に訊いたことがある。「どうして物を捨てるのかと腹立たしくならないですか」と。

 くだんの知人は平然とこう答えた。

「思わないですね。そもそも人になにかを期待していないですし、人間のいろいろな行いを見れば、道路にゴミを捨てる人がいてもまったくおかしくはないですよ。ただ自分が気持ちいいから拾っているだけです」

 なるほど、と思った。人間のさまざまな所業から見れば、ゴミを捨てることなど可愛いものだし、世の中をきれいにしようと思ってやっているわけではない。つまり、奉仕活動ではないということ。徹頭徹尾、自分のためなのだと。

 それを聞いて、その人は信用できる人だと思った。声高に「環境をよくするため」と言われたらちょっと引いてしまうが、そういう理由なら腑に落ちる。以来、懇意にさせていただいている。

 そのことと関係はないが、早朝、京都の寺町通りを歩いていたら、右上のような看板に出くわした。「ヘタな標札屋」とある。

 思わずニンマリとしてしまった。おそらく、この店の主人は、自分ではヘタだと思っていないのだろう。それどころか、すご腕の職人だという矜持が見え隠れしている。ただ、それをストレートに表すのは野暮天丸出しで嫌なのだ。まちがっても「どうだ! スゴイだろ!」と思わせるような文言は掲げたくないにちがいない。

 わかるわかるその気持ち、と妙に頷いてしまった。広告・出版会社を経営する人がそんなことでいいのか、と自問しなくもないが、こころはもともと複雑な万華鏡のようなもの。単純に言い切る方がどうかしている。その点、昨今大流行のサプリメントのコピーなど、いかがわし過ぎて、もんどりうってしまう。用心用心。

 

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(200319 第978回)

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