牧野富太郎が時空を超え、そこにいる
西武新宿線大泉学園駅から徒歩で数分のところに牧野記念庭園がある。世界的な植物学者・牧野富太郎の邸宅跡地につくったものだが、これがめっぽう素晴らしい。公立(練馬区立)にしてはきわめて上出来といえる。
富太郎のスケッチ画や愛用の品々を展示する記念館の前に、約300種の植物が生育する雑木林のような庭が広がっている。さらに昨年(令和5年)、富太郎が実際に使っていた書斎と書庫が再現された。
驚くべきは、そこに収蔵された書物のほとんどが、ある美術家の手によって精妙に再現されていること。表紙の紙質や着色など、本物と寸分たがわない。富太郎が実際に座っていた文机や部屋に掲げられていた扁額も再現されている。
なんという執念か。まるで、富太郎が時空を超え、そこにいるかのようだ。
富太郎を現代の常識という尺度で測れば、「?」という部分も多々あるが、真摯に生き、余人にはとうていできないことを偉業を成し遂げた。そういう人の痕跡が鮮やかに残されている。
45000冊に及ぶ蔵書のうち、ほんの一部。富太郎はお金のあるなしにかかわらず、高価な書物を買い求めていた
富太郎愛用の座布団
富太郎が独自に考案した胴乱(採取した植物を持ち帰るカバン)
記念館
(241004 第1240回)
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