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紺碧の将

音楽が好きで好きでたまらない光線ドバドバ

file.217『意味がなければスイングはない』村上春樹 文藝春秋

 

 村上春樹は同好の士といっていい。本書のあとがきにこうある。

 ――書物と音楽は、僕の人生における二つの重要なキーになった。僕の両親は音楽をとくに好む人々ではなかったし、子供のころうちにはレコードの一枚もなかった。それでも僕は「独学」で音楽を好むようになり、ある時期から真剣にのめり込んでいった。食事を削って、空腹を抱えてでも音楽を聴いた。良い音楽であれば、ジャンルはなんでもよかった。クラシックでも、ジャズでも、ロックでも、えり好みすることなく片っ端から聴いた。

 不肖私も「独学」で音楽にのめり込んだ。誰かに影響を受けたわけではない。真剣に探し求めてようやく見つけられるくらいの細いチョロチョロした情報源を頼りに、自分の心に響く音楽を求めていった。そんな思いがあればこそ、「音楽を食べて大きくなった」というコラムを書いた。

 本書は、音楽がなければ生きている意味がないとまで思っている(たぶん)村上春樹の音楽エッセイである。選んだコンテンツが彼らしい。シダー・ウォルトン、ブライアン・ウィルソン、シューベルト「ピアノ・ソナタ第17番」、スタン・ゲッツ、ブルース・スプリングスティーン、ゼルキンとルービンシュタイン、ウィントン・マルサリス、スガ・シカオ、フランシス・プーランク、そしてウディ・ガスリーときたもんだ。死んでもビッグネームは選ばないぞという頑ななこだわりを感じる(ブルース・スプリングスティーンを除き)。

 私もそこそこジャズは好きだが、トップバッターのシダー・ウォルトンは知らなかった。春樹がなんども「目立たない」と書いているように、ほんとうに目立たない人である。次のビーチボーイズは、言ってみればサーフィン・サウンドだろ? という感じ。シューベルトのピアノ・ソナタ17番に至っては、謎でしかない。春樹はこの曲が好きだと書いているが、「このソナタはとりわけ長く、けっこう退屈で、形式的にもまとまりがなく、技術的な聴かせどころもほとんど見当たらない。いくつかの構造的欠陥さえ見受けられる」とまで書いている。それでもあえて選んでいるのだ。へそ曲がりというか天邪鬼というか、選んだ根拠がわからない。私なら21番か13番を選ぶ。

 スタン・ゲッツは悪いジャズ・プレイヤーではないが、いかんせんドラッグでヘロヘロの状態が多かった。その分、いい演奏は少ない。ルドルフ・ゼルキンとアルテュール・ルービンシュタインという二人のピアニストについての文章は的確で含蓄に富んでいたが、次のウィントン・マルサリスに関しては、そもそもタイトルが「ウィントン・マルサリスの音楽はなぜ(どのように)退屈なのか?」である。ちょっと春樹さん、いい加減にしてくださいよと言いたくなる。

 また、日本のポップ・ミュージックはほとんど心に響かないと前置きしながら(この点は私も同様)、スガ・シカオだけは別だという。そこで当時、私はスガ・シカオのCDを買ったが、どうにもフィットしなかったため、すぐに売ってしまったという経験がある。

 近代フランスの室内楽をこよなく愛する私としては、プーランクを選んでくれたことは嬉しい。春樹は言及していなかったが、とりわけチェロ・ソナタは大好きな曲である。最後のウディ・ガスリーはきわめつけの反体制派。貧しき人々への共感はわかるが、共産主義者じゃねぇ……。当時は共産主義革命の残忍さが露見されていなかったから、仕方がないといえば仕方がなかったが。

 ……という具合で、セレクトには「?」が多いが、それを補って余りあるほど音楽への愛に溢れている。しかも雑食というのがいい。◯◯しか聴かないという頑なな人はちょっと苦手だ。

 

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