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白い衣装と東洋的な思想をまとった革命的な作品

file.002『The Beatles(通称:ホワイト・アルバム)』ザ・ビートルズ

 タイトルが潔い。『The Beatles』、以上! バンド名だけで作品名をなしにしたのか、あるいはバンド名がそのまま作品名を兼ねているのか、その真意はわからないが、自信に裏打ちされた命名であることは明白だ。

 一方で、このアルバムはまとまりがないなどという評価も多い。だが、その指摘は当たらない。4人(特にジョンとポール)は断崖絶壁の縁に立ちながら、絶妙な調和を保っている。あたかも、エントロピーの法則に抗うかのように。

 驚くべきは、わずか3、4年前、マッシュルームカットにしたアイドルグループが一気に成熟したことである。風貌を見てもわかる。ジョンとジョージはもはや神のごとく風貌と佇まい。いったい、なにがそれほど劇的な成長をもたらしたのか。ヒントのひとつは、インドのリシケシュにあるマハリシ・マヘーシュ・ヨーギーのアシェラムでの瞑想体験だろう。事実、このアルバムに収められた曲の大半は、インドのリシケシュで書かれている。持って生まれた才能に加え、東洋思想との邂逅によって、彼らの稀な才能が一気に開花した。

 コード進行の複雑さ、アレンジのアイデアなど、音楽性の深まりも驚異的である。ジョンの「ハピネス・イズ・ア・ウォーム・ガン」はもともと別の3曲がひとつに融合されたものだが、ここで示した展開力・構成力は舌を巻くばかり。「マザー・ネイチャーズ・サン」や「マーサ・マイ・ディア」のようなメロディアスな作品があるかと思えば「オ・ブラ・ディ・オ・ブラ・ダ」のようなゴキゲンなロックンロールもある。「ピッギース」のようなメッセージ性の強い作品もあれば「レボリューション9」のような実験的な作品もある(何度も聴くのは苦痛だが)。「ヘルター・スケルター」や「バースディ」のような攻撃的な作品もあれば「ジュリア」のような叙情的なアコースティック作品がある。ジョージが招聘したエリック・クラプトンのように、〝外部の人〟の力を引き出した「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」のような作品もある。

 ポールはこのアルバムで、特別な才能をさらに印象づけた。ドラミングについてリンゴに注進したところ、気を悪くしたリンゴは〝職場放棄〟した。レッド・ツェッペリンのジョン・ボーナムのように確固たる存在理由が薄かったリンゴだから、いなくてもあまり影響はない。なんとポールが最初の2曲でドラムを叩き、急場をしのいでいる。時にピアノも弾くし、持ち場のベースでは個性あふれるベースラインを披露している。現代クラシックの作曲家がポールのアレンジに舌を巻いていたことを思い出す。

 ただ、聴きようによっては散漫な印象を与えることも事実だろう。4人の間に齟齬が生じ始めた時期に作られたことはまちがいない。それまでの〝全員集まって録音〟という方法ではなく、各楽器を別々に録音し、オーバー・ダビングできるようになったことも結束力を弱める要因ともなっているのだろう。

 

 ジャケットはタイトルをエンボス加工しただけで、真っ白。前年に発売された『サージェント・ペパーズ・ロンリーハーツ・クラブ・バンド』はサイケデリックなジャケットだったが、その正反対をいった。

 その真っ白いジャケットに、シリアル・ナンバーがナンバリングされている。全世界で200万枚のみに付すと決められていたらしい。ちなみに、私が持っているレコードのナンバーは215875番。資料によれば、日本版の163,000〜263,000番は73年12月にプレスされている。ということは、私が14歳のとき。一ケタ台のナンバーはたいへん貴重で、0000001番のレコードはオークションで1億円の値がつくという。

 ラザフォード・チャンという現代美術のアーティストは、「ホワイト・アルバム」を2000枚以上並べた作品を作っている。白いジャケットは経年変化により、さまざまな色がついている。それを並べると、自然と人間の共同創作になるというわけだ。ちなみに、当時のジョンとヨーコのイメージカラーは白で、白いスーツを来て、白塗りのロールスロイスに乗っていた。ベトナム戦争などで行き詰まっていた社会をリセットするという意味も込められていたようだ。

 賛否両論ある本作品だが、玄人筋には評価が高い。2003年、アメリカの「ローリング・ストーン」誌が選出した「All Time Best 500」には10位に、13年、イギリスの「NME」誌が選出した「All Time Best 500」には9位にランクされている。この手のランキングがどの程度信憑性があるかはわからないが、少なくとも多くのロック狂が喧々諤々やりながら選んだものであり、一定の信頼性はあるはずだ。

 このアルバムビートルズの発売50周年を記念して、リミックス盤が発売された。リミックスとは、オーバー・ダビングされたいくつもの楽器の演奏や歌をバラバラにし、再び磨き直す作業をいう。

 かつてビートルズのエンジニアを担当していたジョージ・マーティンの息子、ジャイルズ・マーティンが担当している。ポールから「極限までやれ。限界を超えたら止めるから」とお墨付きをもらい、のびのびと仕事をやりきった。音の粒の際立ち、重低音の響き、各ヴォーカルや楽器のバランスなど、心憎いばかりにブラッシュサップされた。30曲を大きな音で通して聴くと、このアルバムの魅力がまざまざと浮かび上がってくる。ジャイルズの根底にあったのは、ビートルズと深く関わった父へのリスペクトだろう。

 白い衣装と思想をまとった革命的な作品。これからも聴き続け、唸らされるはずだ。

(201225 第2回)

 

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