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紺碧の将

『資本論』はだれも実践できない(7)

2021.03.23

資本主義と共産主義のちがい

 

 資本主義と共産主義がどういう結果をもたらすか、はからずも戦後の東西ドイツを比較することによって理解できる。いわば、あの東西分割は、政治思想が人間にどのような影響を及ぼすかという壮大な社会実験でもあった。同じドイツ人の国であるにもかかわらず、結果的に東西ドイツは両極端と言っていいほど異なる国になってしまったのだから。

 わかりやすい例が自動車だ。西ドイツはメルセデス・ベンツ、ポルシェ、BMW,アウディなど世界に冠たる高級車をつくり続け、東ドイツはトラバントというおもちゃのような車しかつくれなかった。私はあるイベントでその車を見たことがあるが、日本では一般公道を走れないというくらいお粗末な車だった。

 いったい、彼我の差は何によって生まれたか。

 人間はだれしも「自分を成長させたい」という向上心と「できるものならだれかの世話になって楽をしたい」という依存心をもっている。西ドイツは前者の心を引き出し、創意工夫を促す政治システムであったのに対し、東ドイツは努力した者もそうでない者も同じという、後者の心を増幅させるシステムであった。東ドイツに限らず、ほとんどの共産主義国家が破綻したのは、「努力しても報われない」という、人間の向上心を阻害する致命的な欠陥があったからだ。「すべての人が分け隔てなく平等」という思想は、一見理想的に思えるが、人間の本質を無視した絵空事だ。

 われわれはこの歴史の教訓に学ばなければならない。

 しかし、共産党などの左翼政党や朝日新聞などの左翼言論機関、日教組などは歴史から何も学んでいない。共産党の経済政策は、まさしく東ドイツのような国へ逆行しようという愚かなものだ。企業が努力を重ねて内部留保したものを強制的に吐き出させようという政策は、盗人の発想であろう。これらの主張は、一見弱い者の味方とも思えるが、そのような事態になれば、優秀な企業や個人は「より条件のいいところ」を求めて移転するだけである。結果的に、雇用が減少するということも歴史が証明するところだ。

 イギリスの元首相サッチャーは、「金持ちを貧乏にしても、貧乏な人が金持ちになるわけではない」と言った。サッチャー改革がさまざまな問題を生んだことはまちがいないが、少なくとも瀕死の状態にあったイギリス経済を生き返らせ、最悪の事態を回避した功績は大きい。イギリスがあのまま懲罰的な税制を維持していたとしたら、共産主義国家と同じように、国家破綻は免れなかっただろう。

 

最後に

 

 イギリスの元首相チャーチルは、「民主主義は悪いシステムだ。ただし、それ以外のどの政治システムよりはマシだ」というようなことを言ったが、資本主義についてもそのような見方が必要なのではないか。

 そもそも完全無欠の政治システムや経済システムなどこの世に存在しない。より良いか、あるいはより悪いかで適宜判断しなければいけない。地下水の問題でリニア新幹線に反対している静岡県知事のように、その都度、問題提起をして合意を形成していく。

 ただ、それをしたからといって、資本の暴走が止まるわけではないだろう。急速に進行するか、緩慢に進行するかのちがいだけで、基本的には地球を食いつぶす方向へ進むことは阻止できないと私は思っている。

 なぜなら、人間から欲望を取り去ることは不可能だからだ。また、仮に正論というものがあったとして、すべての国家が合意形成できることなどありえない。格差を是正するとして、ある国で膨大な利益に対して懲罰的な課税をすれば、その会社は国境を超えて、より寛容な国へ移転するだけである。

 

 最後に、肝に銘じておくべきことがある。共産主義は宗教をなぜ否定するのか。それは共産主義そのものが宗教、それも徹底的に非寛容で原理主義的な新興宗教の類だからだ。

 もうひとつ、なぜ共産主義者は一様にマルクスの理論を活用し、なぜかくも悲惨な犠牲者を生み出した政治システムをつくったのか。逆の言い方をすれば、なぜ、マルクスの理論は共産主義者に利用されたのか、それらを明らかにしないまま、『資本論』を無邪気に再評価することは極めて危険である。(第7回、最終回)

(210323 第1068回 写真は東ドイツの国民車「トラバント」)

 

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