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紺碧の将

ガラスで表現する命の根源と女性性

2020.02.08

 昨秋から手がけていた書籍が仕上がった。タイトルは『FINDING VENUS』、副題は「ガラスで表現する命の根源と女性性」。

 ヴェネチアと日本を拠点に制作を続けるガラス作家・植木寛子さんの生い立ちから現在までの物語と、ガラスの靴、女神、ジャポニズム、クラゲなど主要な作品を交互に掲載するビジュアルブックである。文章とカラー作品が見開き単位で交互に現れるという構成は、エアロコンセプトの菅野敬一氏をテーマにした『SHOKUNIN』と同じ手法である。

 取材のとき、創作のコンセプトをひとことで言い表すとしたらなんですかと訊いた。彼女は「命の根源を表現すること」と即答した。なるほど、植木さんが選ぶモチーフはすべて女性的だ。ふくよかで曲線的で美しく、同時に命を生み、育む母性としての強さも併せもっている。

「ガラスという素材は透明感があって滑らかで、女性を表現するにはピッタリなんですよ」と言葉を継いでくれた。

 とっさに「FINDING VENUS」というタイトルが脳裏に浮かんだ。ヴィーナスという、よく使われるが具体的なイメージがつかみにくい概念を追い求めている人だと思ったのだ。

 その後、取材・原稿を進めながら、膨大な作品データを整理して選出し、全体の構成を考えた。もちろん、ブックデザインも自分で行う。本作りの川上から川下まで手がけられるのはじつに楽しい。

 本文を読んでもらえばわかるが、植木さんの境遇は恵まれている。「こんなに恵まれていれば自分だって……」という気になる人もいるだろう。

 しかし、それほど人生は簡単ではない。人は逆境を活力源にすることもあれば、順境がプレッシャーになり溺れてしまうこともある。要は、生まれながらに与えられた境遇をどう活かすかだが、せっかくの順境を活かせないケースは案外多いものだ。

 その点、彼女は大いに活かしている。それができたのは、物怖じしない性格に加え、「論語」で書かれているような〝人間の基礎〟ができているからにちがいない。加えて、枯れることのない豊かな創造性が大きな武器になっているのは言うまでもない。自分は芸術家だからなにを言っても許されると勘違いする人が多いが、それができるのは世界でもほんの一握りの超弩級才能をもった人だけ。

 初めて植木さんの作品を見たのは、サントリー美術館で開催された「あこがれのヴェネチアンガラス展」だった。伝統的なヴェネチアンガラスに続いて、最後のコーナーに数人の日本人作家の作品が並んでいた。そのなかで、彼女の作品は異彩を放っていた。「これがヴェネチアンガラスか!」と頭のなかで「!」が何度も点灯した。その後、『Japanist』で紹介させていただき、昨年は日本の美術家・工芸家を紹介するサイト「美し人」でも掲載している。https://www.umashi-bito.or.jp/artist/375/

 この本には、人生の要諦を盛り込んだ。植木寛子さんのファンはもちろんのこと、彼女を知らない人にとっても有意義な書であると信じている。

お求めは、https://www.compass-point.jp/book/findingvenus.html

 

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(200208 第968回 写真上は表紙、以下は本文のカラーページ)

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