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紺碧の将

破天荒な城を再建するという夢

2020.02.04

 いろいろな城を見たが、私にとっての双璧は姫路城と安土城。前者は現存するものとして、後者は現存しないものとして。

 安土城を知らない日本人はいないだろう。あの信長が、自らを雲上人だと天下に知らしめるために、「ドーダ、まいったか!」と言いながら造った城だ。山本兼一原作の映画『火天の城』を観れば、いかに途方もない城だったかわかる。右上の図を見ていただきたい。戦う城というより、誇示する城である。

 当時、宣教師のフロイスはたびたび安土城に登城し、そのときの印象を次のように書いている。

 

 ――中央の山の頂に宮殿と城を築いたが、その構造と堅固さ、財産と華麗さにおいて、それらはヨーロッパのもっとも壮大な城に比肩し得るものである。

 多くの美しい豪華な邸宅を内部に有していた。それらにはいずれも金が施されており、(中略)見事な出来栄えを示していた。

 そして真ん中には、彼らが天守と呼ぶ一種の塔があり、我らヨーロッパの塔よりもはるかに気品があり壮大な別種の建築である。この塔は7層から成り、内部、外部ともに驚くほど見事な建築技術によって造営された。事実、内部にあっては、四方の壁に鮮やかに描かれた金色、その他とりどりの肖像が、そのすべてを埋め尽くしている。

 外部では、これらの層ごとに数々の色分けがなされている。あるものは日本で用いられている漆塗り、すなわち黒い漆を塗った窓を配した白壁となっており、それがこの上ない美観を呈している。他のあるものは赤く、あるいは青く塗られており、最上階はすべて金色となっている。

 この天守は(中略)もっとも堅牢で華美な瓦で覆われている。それらは青色のように見え、前列の瓦にはことごとく金色の丸い取り付け頭がある。屋根にはしごく気品のある技巧をこらした形をした雄大な怪人面が置かれている。

 

 こうまで書かれては、ぜひともこの目で見たい。それがかなわないから地団駄踏む。金箔と狩野派による襖絵が絢爛豪華に輝いていたことだろう。

 しかし、安土城は信長の権勢と期を同じくするかのように、完成して約3年後、本能寺の変のあと、焼け落ちた。消失の理由ははっきりわかっていない。

 十数年前、安土城を訪れたことがある。まず、大手門からズドーンと真っ直ぐに伸びた大手通に度肝を抜かれた。通常なら、攻めにくく(守りやすく)するため、曲がりくねった道にする。姫路城がそうであるように。ところが、信長は世の中の常識など、アホな俗人が考えたもので、自分には関係ないと思っていたようだ。

 さらに、火事に弱いという欠点を知りながら天守閣は吹き抜けの構造にし、とびきり高い天守を造った(案の定、完成後、天守閣は落雷にあっている)。

 破天荒な信長が造った安土城も、まさしく破天荒だった。

 前回、復元された東京駅舎について書いたが、安土城を復元できたらどんなに素敵だろうと思う。あらゆるものがこじんまりと整形される現代において、規格外の歴史的建造物を再建する価値は大いにあるのではないか。国家的プロジェクトとして広く寄付を募れば、建築費用を捻出できるのではないかと思うのだが、いかがだろうか?

 

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(200204 第967回 写真下は天守閣跡)

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