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紺碧の将

古い家がいっぱい

2019.12.10

 川崎市多摩区に、25軒の日本の古民家を一堂に集めた「日本民家園」という野外博物館がある。いずれも国・県・市の文化財産指定を受け、8軒は国の重要文化財指定を受けている。

 起伏のある広大な敷地に風情のある民家が立ち並び、散歩コースとしてもお薦めだ。

 

 住居には、その国(地域)の風土や生活文化が色濃く反映されている。つぶさに見れば、そこに暮らした人たちの生活観も透けて見える。

 日本の古民家の特長は、まず第一にすべて自然素材を用いていること。ほかに選択肢がなかったともいえるが、自然素材を巧みに利用する術において、わが日本民族はずば抜けている。屋根は茅葺き、他の部位はほとんどが木材。高温多湿の気候には最適だ。ほかに紙、あるいは自然の石や竹も巧みに活用している。

 第二に、大家族がともに住む間取りでありながら、プライバシーの優先順位が低いこと。いちおう襖や欄間で部屋が仕切られているが、ほかの部屋との区別は曖昧だ。隣の部屋にいる人が病気になれば、それがわかるような距離感といえばいいだろうか。当然、夫婦の房事は外に漏れてしまうが、そこはそれ、聞こえていないフリをすることでプライバシーを保っていたのだろう。

 第三に、谷崎潤一郎が書いたように、室内が暗いこと。まさに陰影礼賛である。一部に自然光を採り入れるだけで、ピカピカの明るさにはしない。それが日本人の心性の形成に大きな影響を与えたことは疑いえない。

 日本の古民家の特長はほかにもあげられが、そこではたと思う。現在のわれわれの住居とあまりにもかけ離れていることを。現代の日本人の多くは私も含め、鉄筋コンクリートの集合住宅に住んでいる。古民家にあるような情緒はまったくない。湾岸を埋め立てて造った高層マンションがいいという人もいる(それはゴメンだが)。住文化の断絶と言わずしてなんといおう。

 では、古民家に住みたいかと問われれば、私はまったくノーだ。生活において音楽の比重が高い私にとって、あるていど大きな音量で音楽を聴くことができなのはそれだけで致命的。寒いのも苦手だ。日本的な情緒はけっして嫌いではないが、古い日本家屋に暮らそうとはみじんも思わない。演歌やJ-P〇Pが感性に合わないのと同じだ。

 そんな私の理想の住まいは、モダン・ジャパニーズ。この時代にぴったりと調和し、美しく快適、さらに日本的な要素がそこかしこにある。日本的とはいっても、畳や障子はいらない。そもそもずっと椅子の生活だったから、正座ができない。最近、それもどうかと思い、ベッドの上で1分間の正座の〝訓練〟をしているのだが……。

 やはり私は、生粋のニッポン男子ではないようだ。

 

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