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紺碧の将

人間と自然の合作

2019.09.25

 裏磐梯五色沼ビジターセンター入り口に個性的な美術館がある。

 諸橋近代美術館。ダリのコレクションで知られている。

「ダリってだり?」とヘンなオヤジギャグは言わないでね(え? 言っているのはおまえだろうって?)。

 設立者はゼビオグループの創業者、諸橋廷蔵氏。成功したのち、〝故郷に錦を飾る〟の言葉通り、出身地の福島に美術の殿堂をつくろうと思い立った。

 いったいどういうアクロバティックな技を使ったのか、磐梯朝日国立公園内の交通至便の地に5万㎡もの広大な敷地を確保し、〝中世の厩舎〟風の瀟洒な美術館を創った。右写真のように、建物の前に池が広がり、美術館の窓からは磐梯山など、絶景が望める設計だ。外装や内装に使われている玄晶石が、いかにも中世ヨーロッパを醸している。

 諸橋氏はダリに惹かれ、ダリの作品を340点以上もの作品をコレクションした。セザンヌやゴッホなど、印象派の佳作もある。美術館の器といい、収蔵品といい、個人の美術館としては国内屈指といっていいだろう。

 ひとつ、難をあげれば、企画展の内容に乏しいこと。これだけの収蔵品があるのだから、常時収蔵品を並べ替えるだけでいい。私が見た「四次元を探しに ダリから現代へ」展では、11人の現代作家の作品が展示されていたが、作品の質の低さは言うに及ばず、なにを意図しているのかまったくわからず、心に迫ってくるものはなかった。

 現代美術を否定しているわけではない。現代のアーティストにはつねに新しい物の見方を切り拓いてほしいと思っている。むしろ、先達の焼き直しで終わるのは怠慢でさえあると思っている。人は美の価値観においても硬直しがちだ。感性を柔らかくするのに、現代美術は有効であるはずだ。

 しかし、誰が企画したのか、同展に選ばれた作品は私にとってはただただ退屈なだけだった。繰り返すが、展示面積も限られているのだから、常時コレクション展でじゅうぶん魅力的である。

 ところで、創始者の諸橋氏だが、事業が成功し、上場益によって好きな美術品を買い集め、それらを展示する立派な美術館まで創ったというのに、ハワイのコンドミニアムの22階から転落して命を落としてしまった。神様は、最後の最後にむごい結末を与えたものだ。人間万事塞翁が馬、いつなんどき、どうなるかわからない。ちょっとした油断が命取りになる。

 人間による創作と神の創作(自然)が調和した諸橋近代美術館はまさに神人合作。その感懐に浸りながら、妙なことを考えてしまった。

 

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(190925 第934回)

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