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紺碧の将

美を愉しませる工夫

2018.09.28

 石川県山中での取材のあと、県立九谷焼美術館を案内してもらった。

 私は正直なところ、九谷焼のファンではない。九谷に限らず、信楽、益子、備前、鍋島、伊万里、唐津など焼物のどの産地についても、「好きな作家かどうか」という視点で見ているため、特定の焼き物の産地に思い入れがあるわけではない。

 九谷焼美術館に展示されていた作品についても、企画展(現在の作家による選抜作品)の方が常設展示されていた作品よりも惹かれた。本来なら、常設展示されている作品の方に軍配が上がるのだろうが。

 それよりも、この美術館の佇まいや展示の工夫に感銘を受けた。特に、中庭を囲んだ回廊の見せ方は文句のつけようがない。水が流れ落ちる音が絶え間なく聞こえ、休憩用の椅子があるかと思えば、その前方には借景が広がっている。額縁のように借景を切り取るコーナーもあれば、かなり明度を下げた薄暗い空間で作品を浮かび上がらせている部屋もある。途中、中庭へ出られるような設計の妙も特筆に値する。いったい、だれが全体の指揮を執ったのだろう。

 2階のカフェも素晴らしい。コーヒーを注文したが(味は平凡)、提供の仕方がいい。一人ひとり器が異なるのは当然として(もちろん九谷焼)、それぞれに野の草花がついているのだ。さらにコーヒーのあとに、小ぶりな器に入ったお茶まで供される。九谷焼作品の販売コーナーも雑然とした風がなく、ギャラリーを覗くような感覚で楽しめる。

 面白かったのは、入り口付近にあった来場者がどこから来たのかを調べるための白地図だった。自分の住所がある都道府県に赤いシールを貼るという、よくあるものだが、地元石川県を除けば東京と大阪が圧倒的に多い。東京は赤いシールが整然と並んでいる。私もその列にならって行儀よくシールを貼った。

 ところが大阪のところに目を転じると、シールがめちゃくちゃバラバラに貼ってある。「とにかく大阪のところに貼っておけば文句はないやろ!」と言わんばかりの不揃い具合。これには笑ってしまった。東京は良く言えば行儀がいい、悪く言えば個性がない。大阪は良く言えば自由奔放、悪く言えばだらしがない。東京と大阪についての、ステレオタイプのイメージ通りに赤いシールが並んでいた。

 いたるところに愉しいネタはある。

 

※悩めるニンゲンたちに、名ネコ・うーにゃん先生が禅の手ほどきをする「うーにゃん先生流マインドフルネス」連載中。 第28話は「夢と妄想は紙一重」。

https://qiwacocoro.xsrv.jp/archives/category/%E9%80%A3%E8%BC%89/zengo

(180928 第845回 写真上は休憩用の椅子から見た中庭。下はカフェで供されたコーヒー)

 

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