多樂スパイス
HOME > Chinoma > ブログ【多樂スパイス】 > ある魔法使いの仕業

ADVERTISING

紺碧の将

ある魔法使いの仕業

2018.09.24

 知人が立ち上げた「一般社団法人 日本美術工藝協会」の依頼で石川県加賀市の山中を訪れ、蒔絵師の松山武司さんに取材をした。

 漆器の製作は分業がなされている。全体の工程を把握するため、挽物を専門に行なっている工房、下地塗りと上塗りを専門に行っている工房、そして指物師の工房に伺い、詳しい話を聞いた。

 今回紹介するのは、指物師の髙橋健治さん。指物(さしもの)とは、木を加工して家具や茶道具、その他なんでも作ってしまう魔法使いのことをいう。髙橋さんが作ったものを見ると、「こんなものまで?」と声が裏返ってしまうほどの精巧さ。

 写真右上は琵琶の形をした香合だが、ドラえもんのポケットからさまざまなものが出てくるように、高橋さんの玉手箱から次から次へとユニークな作品が現れる。

 来し方を伺うと、ひょんななりゆきで山中に定住するようになったらしい。名古屋の生まれだが、ある時、背中を傷め、手術を要すると診断された。しかし、なかなか手術の順番が回ってこない。やむなく知人の勧めで、山中温泉にやって来て、日がな一日、温泉に寝そべっていた。しばらくすると、傷は回復したという。

 山中は漆器や木工の名産地、ある日、指物師が作ったものを見て、「これなら俺にもできる」とひらめき、以来、指物師としての人生を歩むことになった。当時、21歳。直感というのは凄いものだ。

 当初は主に茶道具を作っていたが、需要が激減したため、今では一点物の特注品で本領を発揮している。とにかく、「やっかい」かつ「おもしろい」依頼が髙橋さんのもとに舞い込む。それらを嬉々としてこなしているうち、いつしか髙橋さんの顔には愉快な人生をおくっている人特有の表情が貼り付いてしまった(あるいは生来のものかも)。

 世の中、ストレスを抱えた人ばかりだが、職人はどの人も生き生きとしている。そういう姿を見て、職人志望の若者が増えることを願うばかりである。

 

※悩めるニンゲンたちに、名ネコ・うーにゃん先生が禅の手ほどきをする「うーにゃん先生流マインドフルネス」連載中。 第28話は「夢と妄想は紙一重」。

https://qiwacocoro.xsrv.jp/archives/category/%E9%80%A3%E8%BC%89/zengo

(180924 第844回 写真上は琵琶の香合。下は髙橋さんの工房からの風景。道具と屋根瓦が調和している)

 

ADVERTISING

Recommend

記事一覧へ
Recommend Contents
このページのトップへ