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ルーシー・リィーの境地

2009.04.27

 とんでもないものを見てしまった。ホントに見てはいけないものを見てしまったという気持ちだ。

 21_21 DESIGN SIGHTで開催されているルーシー・リィーの作品展。

 これほど完成された世界を見てしまうと、あとが困る。直後に見たサントリー美術館での精妙な薩摩切子でさえ、なーんにも心に響かなかった。作為的過ぎて共感できなかった。ただの工芸品にしか見えなかった。これは恐ろしいことである。罪な人です、ルーシー・リィーさんは。

 ルーシー・リィーの存在を知ったのは最近だ。雑誌『和樂』に掲載されているのを見て、写真だけでかなり心を動かされた。実物を見てしまうと、なにかが変わるかもしれないという予感があった。しかし、仕事が忙しく、なかなか見に行けなかった。

 そうこうするうち、NHKの「日曜美術館」で放映された。三宅一生が出演し、自身とルーシー・リィーの交流、作品の素晴らしさなどを語っていた。それを見た時、これは忙しいなどとウダウダ言わず、早いところ見に行かねばなるまいと肝に銘じた。

 で、前述のような事態になってしまったというわけ。

 高貴で上品で、それでいてほのぼのとした人間ルーシーの陶芸は、まさに「孤高」という言葉がふさわしい。ナチスに怯えていた頃の作品は、たしかに「怯え」が表れていたし、自由を得てからの作品はたしかに「自由」を表していた。侘びのようでいて愉しさがあって、李朝のようであり和のようであり、やっぱりヨーロッパの芯のようなものがあって……。ルーシーの陶芸はずっと見ていても飽きない不思議な魔力を湛えていた。言葉にしようとすると、とても大事なものがスルッと抜け落ちてしまうような気がした。

 そして、特筆すべきは会場設営の抜群のセンスだ。展示空間に水をはり、ギリギリの高さに台を置いて、そこに一点一点ルーシーの作品を散りばめている。水をはった展示空間の中央エリアにある作品の詳細は見えなかったが、全体の配置でまたひとつの作品に仕上げるといった離れ業をやってのけていた。シュルシュルと音をたてながら大きなガラスの壁面を流れ落ちる水も効果的であった。そこを通り抜けた光が展示空間の水に反射して天井にゆらめく光の輪舞をつくっていた。

 なにからなにまで極度に洗練されていた。

(090427 第96回 写真は図録)

 

 

Profile

高久多美男

高久 多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく陰陽相和す中庸を求める

■本は永遠の師匠

バルザック、ユゴー、デュマなど19世紀フランス文学からヘミングウェイ等の20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンの御三家からワーグナーまでのドイツ音楽、フランク、ラヴェル、フォーレなど近代フランス室内楽、バルトーク以降の現代音楽まで、あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■映画は総合芸術だ

『ゴッド・ファーザー3部作』などのマフィアもの、『ニュー・シネマ・パラダイス』、黒澤明のほぼ全作品、007シリーズ、パトリス・ルコント監督作品など、こちらも雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■歴史上の尚友

尊敬する偉人の双璧は、大久保利通と徳川家康。他に幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介。理想主義者、ロマンチストより結果を出したリアリストを評価する

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■隠れ目標

死ぬまで同じライフスタイル

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■追記

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす。かなりの猫好き(愛猫・海=2019年没)、2019年9月、「じぶん創造大学」を設立し、自ら入学(生徒数1名)

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