多樂スパイス

読書する猫

2007.12.31

 拙著『多樂スパイラル』を読んだ人なら、捨て猫が我が家に拾われてきた経緯を覚えているかもしれない。枯れ枝のようにガリガリの子猫があらん限りの声で助けを呼び、ついつい拾い上げてしまったことから我が家の3匹目のペットになったのである。

 海の日に拾われたので「海」と名付けられたその猫はしかし、今やご覧の通り、丸々と太り、優雅な人生を満喫している。特に好きなことは主に似て、読書である。

「今日読んでいたのは、嵐山吉兆の徳岡邦夫という若い3代目が書いた『秋の食卓』なんだけどにゃー。どうもあの一件以来、いまいち説得力がなくてなかなか読み進まないにゃー。そりゃあ、偽装事件をやらかしたのは船場吉兆だけど、一族には変わりがないもんにゃー。創業者の湯木さんは『料理屋と屏風は広げすぎると倒れる』とウマイことを言ったそうだけど、そこまで物事の本質をわかっていても、自分の一族には甘いんだにゃー。まあ、それが人間の限界ってやつですかにぇー」

 本を閉じて、海はそんなことを呟いていた(気がする)。

 たしかに猫に言われるまでもなく、人間は脇が甘い。でも、だからこそ面白い生き物でもある。バルザックの小説を読んでいると、男も女もどうしようもない悪人がでてくるが、なぜか憎めない。反対に、善良な人もときどき現れるが、どうも彼らは魅力がない。それと偽装問題はまったく別次元の話だけど……。

 それはそうと、私が読書用のソファに座り、本を広げると、1分とおかず海がやって来て、私の太股あたりにピッタリと寄り添う。まるで体のどこかにセンサーがついているかのように、私が読書をするタイミングを逃さないのだ。変な猫である。

 

 ある人と、今年1年間を表すとしたらどういう字になるのだろうと話していた。おそらく私は「動」だろうと答えた。近年、こんなに動きの激しかった年はない。横浜にフーガ・コミュニケーションズ株式会社を作り、宇都宮と横浜を行ったり来たりする生活になってしまった。なにものかに引き寄せられるかのように。ある時期から、人は運命の力に抗えず、それに引き寄せられていく、と誰かが書いていたが、まさにそうなのだと思う。

 2008年は新生『fooga』に加え、北原照久氏、船村徹氏の本など、出版の予定がすでにいくつかある。西原金蔵氏の本にも着手する。創業21年になるコンパス・ポイントの再構築も必要だ。

「大丈夫、あなたなら。私を拾った時から天が味方をしているじゃにゃいですか〜〜」

 海がそう言った(気がする)。

「だから、もっと高い餌を買ってほしいんにゃけど〜」

 そうおねだりする海であった。

(071231 第28回 )

 

 

 

Profile

高久多美男

高久 多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

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