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紺碧の将

ヤマガタデザインと「田んぼに浮かぶホテル」

2022.08.22

 鳥海山に登る前、鶴岡市に宿をとった。

 鶴岡は好きな街である。人口はたかだか12万人。しかし、魅力満載の街でもある。

 月山、羽黒山、湯殿山の出羽三山を背にしている。流れてくる山の霊気は半端じゃないだろう。芭蕉もそれぞれの句を詠んでいる。私もこれまでに何度も訪れた。

 遠く、北を望めば、雄大な鳥海山がドンと鎮座している。

 目の前は日本海だ。

 神域を間近にしているからか、食材や人間のできが良い。山の幸・海の幸ともに優れ、庄内地方は「蜀の都」としても売出し中だ。本コラムで紹介した伝説のイタリアン「アルケッチャーノ」はまさにこの地方ならではの名店。それを支えたのが、『Japanist』の巻頭対談に出ていただいた〝現代の南方熊楠〟こと山澤清さん。藤沢周平や数年前亡くなられた渡部昇一も鶴岡の出身。

 本コラムで紹介した「湯どの庵」などいい宿もたくさんある。

 

 今回、泊まったのは、スイデンテラスという名のホテル。「田んぼに浮かぶホテル」と銘打っているように、周囲は田んぼだらけ。水田を借景に使ったホテルはタイのリージェント・チェンマイが有名なところだが、日本ではあまり聞かない。設計は、「紙の建築」で知られる世界的な建築家・坂茂氏。ホテル内のどこにいても田んぼを感じられる設計である。

 このホテルを運営するのは株式会社ヤマガタデザインという会社だが、庄内地方に拠点や縁を持つ企業の投資により設立された。聞くところによると、数十億円も集めたという。

 すごい! それだけで、この土地に対する愛着を感じる。

 代表を任されているのは、山中大介さん。公式サイトのメッセージ欄には次のような言葉がある。

 ――私たちは山形県庄内地方の街づくり会社です。(略)当社にとっての“街づくり”とは 「地域課題をクリエイティブに事業としてデザインして解決すること」であり、(略)当然に目指すべきことは、事業として再生産可能なキャッシュフローを獲得し続けることです。(略)しかし同時に、お金というものは所詮、手段でしかないという事実を理解しています。生きる上で最も大切なことは、未来への希望であり、お金とはそのための手段です。(略)消滅可能性都市に数えられる山形庄内ですが、豊かな自然と食、歴史背景や文化に恵まれたこの場所には、それを実現する大きな可能性があると確信し、挑戦を続けて参ります。

 

 ほかに、観光の項目には「庄内を世界からの目的地に」、教育の項目には「正解のない時代にジブンを育む教育を」という言葉も並ぶ。

 

 素晴らしい! 企業経営をしていると、手段であるはずの数字(お金)が目的化してしまうことが多い。なんのための売上目標なのかが検証されないまま、一人歩きし、やがて暴君になるのだ。山中氏の言葉には、そのような傾向を理解したうえで、自分たちの目的を見据えようという意図を感じることができる。

 ライブラリーには2000冊の本が並ぶが、ディレクションとセレクトはバッハの幅允孝さん(バッハは幅を逆から読んだ?)。バッハのサイトを覗くと「人が本屋に来ないのならば、人がいる場所へ本をもっていこう」という文章があった。

 このスイデンテラス・プロジェクト、素敵な人がコラボしているようだ。

 

スイデンテラスの宿泊棟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブックディレクター監修による約2000冊のライブラリー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

公式サイトの写真。さすがプロはちがう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(220822 第1142回)

 

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