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罪な男、菅野敬一さん

2011.12.15

 物を買わなくなってから、久しい。以前から物欲の少ない人間だと思っていたが、いよいよ欲しいモノがなくなり、新しくモノを手に入れるという行為に、とんと関心がなくなってしまった。

 満ち足りたということが最大の理由だろう。こんなことを書くとヒンシュクを買いそうだが、かつては車を同時に3台所有していた。そのうちの2台がイタリア車という、今思えばとんでもないゼータクをしていた。起業して3年くらいで社屋を造ったり(しかもトレーニングジムやカウンターバー付きというシロモノである)、“自分が住みたい家” をとことん追求した家を造ったことも明らかなゼータクだろう。その結果、わかったことは、「欲しいモノを片っ端から手に入れても、満足度は比例しない」ということだった。むしろ、ある時期からメンテナンスが面倒になったり、明らかにマイナスの気持ちが発生してきた。

 それよりも、精神的満足の方に意識は向かっていった。学び、力をつけて仕事の質を上げる→感謝される→嬉しくなってまたまた頑張る→さらに向上する、という好循環のことは、拙著『多樂スパイラル』や『なにゆえ仕事はこれほど楽しいのか』に書いた通りである。

 ところが、久しぶりに、モノを手に入れる歓びを味わってしまった。

 そのニクき禁断の果実こそが、写真のエアロコンセプトである。以前のこの欄でも書いたが、菅野敬一さんという精密板金職人が「自分の欲しいモノ」というコンセプトで造ったものである。10月に縮緬加工の施してある黒いカバンを手に入れた後、こんどは赤い名刺ケースを手に入れてしまった。

 はっきり言って、カッコ良すぎる! 世界の目利きがメロメロになってしまうのがわかる。なぜ、そうなのか? それは、作り手の思い入れだけで造っているからだ。どんな風にすればもっと売れるか? という発想は限りなくゼロに近い。とことん、自分が好きなモノを造っている。その潔さがいい。今の世の中、マーケティング手法に基づいたモノばかりが氾濫しているが、そういうモノはすでに食傷気味だ。いらない。ゴミが増えるだけ。

 ところで、私は、菅野さんが明確に「欲しいモノ」の具体性をもっていたことに感嘆する。だって、「あなたの欲しいモノを造ってごらん」と言われて、その具体的なイメージを思い浮かべることのできる人なんて、1万人いたとして果たして何人いるか。おそらく10人くらいではないかと思う。

 不肖・私も、自分が読みたい雑誌を作りたいと思い、『Japanist』を創っている。もちろん、動機はそれだけではない。少しは社会のことも考えているつもりだ。自分が今までに培ったもので社会に還元することが正道だと思っているから。

 まだまだ、自分が納得できる領域には至っていないが、変な妥協はしないつもりだ。なぜなら、妥協してまで続ける意義がないから。そういう意気込みで創られているモノを買っていただいているということだけで、じつにありがたい。世の中、まだまだ捨てたものじゃないと思える。

 モノに興味を失っていた私に火をつけた還暦男・菅野さん。じつに罪な人である。

(111215 第303回 写真はエアロコンセプトの名刺ケース)

 

 

 

 

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Profile

髙久多美男

髙久多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

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