多樂スパイス
HOME > Chinoma > ブログ【多樂スパイス】 > 名曲喫茶の悦楽

ADVERTISING

紺碧の将

名曲喫茶の悦楽

2021.12.20

 前回、思わずジャズ喫茶を見つけたことを書いた。それに味をしめ、クラシック喫茶にも行ってみたいと思い、新宿の「らんぶる」へ行ったが、長蛇の列で入れなかったということも。

 杉並区阿佐ヶ谷に「名曲喫茶ヴィオロン」という伝説的なクラシック喫茶がある。初めてそこを訪れ、あまりの居心地の良さに感動した。

 阿佐ヶ谷駅からほど近い場所にある。建物はいかにも歴史を感じさせる。店内に入ると、大きな蓄音機のスピーカーが正面に鎮座していた。音がより広く響き渡るよう、店内はシューボックス型コンサートホールのように、高低差のある2段作りになっている。中央の席を一段下げ、スピーカーをオペラハウスのオーケストラピットのように、さらに一段低い場所に設置している。床に空洞を作ることで店全体が鳴り響くようにしている。だれの曲か知らないが、ピアノソナタが流れていた。プツプツと一定の間隔で雑音が入っていた。

 紅茶を注文すると、「ブランデーはお入れしますか」と聞かれた。ここではコーヒーにも紅茶にも希望者にはブランデーを入れてくれるようだ。

 リクエストができるとあったので、ブルッフのヴァイオリン協奏曲をお願いした。ちょうど、最新の音楽のコラムにその曲について書いていたからだ。店主は「古いものでもいいですか」と言い、私はもちろんです、と答えた。

 流れてきたのは、メニューイン盤だった。音はさほど良くないが、曲そのものが生きているように感じた。まるで人間のような温もりを感じた。これが名演奏たる所以であろう。

 店内の壁には多くの絵画が掛けられ、五木寛之氏の直筆の原稿も飾ってあった。店主によれば、学生時代、中野にあった「名曲喫茶クラシック」に通っていて、店主である美作七朗さんに大きな影響を受けたという。絵は美作七朗さんによるものであり、その店に五木寛之氏も足繁く通っていたのだという。

 1979年、当時26歳のとき、彼は「名曲喫茶ヴィオロン」を開店し、現在に至っている。開店以来、オーディオシステムはすべて彼が手作りしており、今までに100本以上のスピーカーを自作しているという。まさに、本物である。かれこれ41年、世の趨勢とはまったく異なる世界で生きてこられたのだ。毎日、好きな音楽を聴きながら……。だからなのか、表情がとても穏やかだ。

 毎月第3日曜日には、1925年に作られた蓄音機を用い、「21世紀にこれだけは残したいSPの名演奏」と題したレコードコンサートを行なっている。ちなみに、2022年1月(第234回)は、ウィーンフィルのニューイヤーコンサート。今から楽しみだ。

 これだけ回を重ねているのは本物の証。今回も素敵な邂逅だった。

(211220 第1107回)

 

髙久の最新の電子書籍

『禅ねこうーにゃんのちょっとした助言』

『焚き火と夕焼け エアロコンセプト 菅野敬一、かく語りき』

『魂の伝承 アラン・シャペルの弟子たち』

『葉っぱは見えるが根っこは見えない』

『偉大な日本人列伝』

『本物の真髄』

 

本サイトの髙久の連載記事

◆音楽を食べて大きくなった

◆海の向こうのイケてる言葉

◆死ぬまでに読むべき300冊の本

 

ADVERTISING

Recommend

記事一覧へ
Recommend Contents
このページのトップへ