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紺碧の将

自然のなかで遊び、培った経営観

file.055『レスポンシブル・カンパニー』イヴォン・シュイナード+ヴィンセント・スタンリー 井口耕二訳 ダイヤモンド社

 

 会社は社会のなかにあって、どういう存在であるべきか。心ある経営者であれば、必ず直面する大命題である。

 本書の著者イヴォン・シュイナードが出した答えは「レスポンシブル・カンパニー」。ズバリ、責任ある企業。パタゴニアという会社を創立し、40年かけて考え抜いた痕跡が感じられる、シンプルな言葉である。

 

 売上高でいえば、パタゴニアのそれは大したことはない。知名度もさほどない。しかし、前掲の「企業はどうあるべきか」という問いに対する答えとして、イヴォンほど明快な思考を持っている経営者を他に知らない。

 筆者が起業して数年経った頃、「エスクワイヤ」別冊『HOW TO BREAK THE RULE 遊ばざる者、働くべからず』を読み、イヴォンの経営思想にぶっ飛んだ。ふつうは「働かざる者、遊ぶべからず」だが、その正反対をいっている。彼の経営理念は「パタゴニア100ヶ条」に表されていたが、すかさず自分流に置き換えて「コンパス・ポイント30ヶ条」を作った。以来、その言葉を心の片隅に置き、その時々の指針にしてきた。

 遊びと言っても、イヴォンの遊びはナイトクラブに通ったりゲームをしたりというものではない。登山や釣り、サーフィンなど自然を相手に遊ぶのだ。そんな彼が求める人材像もユニークだ。極めつけは採用試験、最終テストとしていっしょに海や山や川へ行き、ともに時間を過ごす。採否を分けるのは、その人が人生を楽しんでいるかどうか。自然のなかでいっしょに遊べば、その人の本性がわかるという。遊びができない人が仕事などできるはずもない、というわけだ。

 そういう人材の集まりだということを証明するかのように、当時のパタゴニアには多彩な人が集まっていた。なんとフリスビーの世界一などなんらかの「世界一」の社員が何人もいた。

 

 では、パタゴニアは何に対して責任のある企業を目指しているのか。その答えを導く前に、イヴォンの宇宙観、自然観を表す2つの言葉を紹介しよう。

「地球を中心に宇宙が広がっているのではなく、地球が太陽の周りを回っている――これが宇宙の真理であるわけだが、経済と環境について同じような真実を認める必要がある。その真実とは、経済が自然を頼みとしているのであって、逆ではない。企業が自然を破壊すれば、経済も空中分解する」

「我々は自然に対して資源という言葉を使う――まるで、自然は好きに使えるものであるかのように。自然に対して環境という言葉を使う――まるで、我々を中心として自然が周りに広がっているかのように。我々自身に対して環境のスチュワードという言葉を使う――まるで、神が人間を自然の管理人に任命したかのように」

 最近でこそ、持続可能な〜という概念が定着してきたが、イヴォンはずっと前からそういう問題意識を持っていた。なぜなら、自然を相手に遊んでいたから。人間によって毀損されていく自然の姿を目の当たりにし、強烈な問題意識を持ったのだ。いま我々は膨大な種類の化学薬品を自然界に放出しているが、この薬品は19世紀まで自然が吸収する必要のなかったものだし、また人間が健康問題として対応する必要もなかったものだと彼は言う。

 そこで彼は考えた。とことん真剣に考えた。自社の製品に関することも詳しく調べた。すると、自社のポロシャツ1枚分に使われる灌漑用水は、900人が1日に飲む量に相当するということがわかった。近い将来、人類は干ばつに苦しめられると予想されているにもかかわらず。だからこそ、新商品をたくさん作ってどんどん売りつけるという行為がいかに反社会的であるかを悟った。

 その結果、パタゴニアは定番商品以外の一過性の商品をほとんど作らず、なるべく長く使ってもらえるよう修繕にも力を入れている。なんと顧客に対し、作りが粗雑なものや翌シーズンには流行遅れで着られなくなるものや必要のないものを買わないと誓約することを求めている。多くの企業はなんでも売りつけようとしているが、パタゴニアは正反対のことをしている。

 それで会社を維持できるのか? という素朴な疑問もあろう。しかし、パタゴニアの経営理念に共感する人は必ずいる。特に若い世代は「責任ある企業」を応援したいという気持ちが強いとイヴォンは見抜いている。要するに共鳴・共感するファンを開拓してきたのだ。他社と同じことをしていては、そのような意識の高い人の支持を得ることはできない。ある意味、イヴォンの経営法は王道でもある。

 彼は言う。

「責任ある企業とは、株主に対してのみ責任を負うのではなく、ステークホルダーとも呼ばれる利害関係者に対して責任を負うと考えるべきである」と。この考え方は世界で主流となっている株主第一主義と一線を画す。むしろ、近江商人の「三方良し」や二宮尊徳の「道徳と経済の一元」、渋沢栄一の「道徳経済合一説」に近い。繰り返すが、彼がそういう経営観を得たのは道徳的見地によるものではなく、自ら自然のなかで遊んだからだ。だから骨身に沁みて知っている。なんとしても自分のやり方を貫こうという確たる信念をもっている。1986年以降、パタゴニアは環境保護活動グループに対し、毎年利益の10%を提供している。儲かったから文化的なことをやってみようというような浅はかな考えとはまるで異なる。イヴォンの信念がベースにあるからこそできるのだ。

 

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