死ぬまでに読むべき300冊の本
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人間は服を着るサルだった

file.045『裸のサル』デズモンド・モリス 日高敏隆訳 河出書房新社

 

 面白い装丁だ。赤い背景に、黒いサルが正面を向いている。透明のカバーを取るとサルの体毛を表していた黒い部分がなくなり、縞のスーツを着た人間が現れる。よく見ると、カルロス・ゴーンが痩せたような感じだ。つまり、タイトルの通り、人間は裸のサルなのだと表現しているのだが、「そうか、カルロス・ゴーンはサルだったのか」と合点がいく。「動物学的人間像」と副題がついているように、本書は動物生態学の観点で論じた人間像である。構成は8章だてで、「起源」「セックス」「育児」「探索」「闘い」「食事」「慰安」「動物たち」と続く。それぞれの観点から、いかに人間がサルの行動原理を引いている(あるいは同じ)かを示している。

 著者のデズモンド・モリスは、1928年、イギリス生まれの動物学者。動物の行動に関する著作をはじめ、フィルムやテレビ番組の制作にも関わり、動物行動学的思想を広く知らしめた。

 訳者の日高敏隆は、デズモンド・モリスやコンラート・ローレンツ、リチャード・ドーキンスを日本に紹介したことでも知られる動物学者である。「日高敏隆選集」のなかの『チョウはなぜ飛ぶか』(ランダムハウス講談社)の鋭い考察は、いまでも鮮明に残っている。

 モリスが指摘しているように、人間(ヒト)は裸のサルに過ぎないが、ほかのあらゆる動物と決定的に異なっている点がある。直立二足歩行をしているということだ。進化の過程で直立二足歩行を選んだことによって、いくつものメリットを享受することができた。

 その最たるものが、ほぼ垂直の背中と首で支えることによって、重量のある、高度な脳を持つことができたということ。また重力によって喉の構造が変化し、微妙な音を使い分けられるようになったことで複雑な言語を駆使できるようになり、コミュニケーション能力が一気に飛躍した。

 いっぽうで、母親の胎内から出てくるときに、脳が大きくなりすぎない状態で生まれる必要があったことから、生後数年は親の保護なしでは生きられないというハンディも背負うことになった。

 本書を読むと、なるほどヒトは裸のサルなのだと痛感するし、同時にヒトだけがほかの動物と一線を画しているということもわかる。

 たとえば、なんでも食べること(本書と同じような装丁で『悪食のサル』という本もある)、同じ人間同士で無用な大量殺戮(戦争)をする、過去と未来という時間の観念をもっている……。とりわけ、発情期でなくても一年中生殖行為ができるというのは人間の人間たるゆえんだという。なぜ女性が口紅を塗るのか、ヒールの高い靴を履くのかなど、その視点で独自の理論を展開している。男(オス)は男らしく、女(メス)は女らしくすることによって互いの性が惹かれ合うのだが、現代のように両者が接近し、「女のような男」や「男のような女」が増えるとどうなるのか。やがて性差がなくなり、男(オス)は不要になるのではないか。もともと、メスはメスだけで生殖をしていた。オスなんて要らなかった。もう一度、そうならないと誰が断言できるだろう。

 動物行動学的視点で見ると、人間の行動やしぐさ、表情はすべて意味がある。それを知ることによって、その人の意思や意図を理解することができる。「あんなふうに言っているけど、本心はこうなんじゃないの?」と。それはそれで興味深いことだが、学者じゃないのだからほどほどにしておいたほうがいいこともたしか。知らないからこそうまくいく人間関係もあるのだから。

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Profile

髙久多美男

髙久多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

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