音楽を食べて大きくなった
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紺碧の将

なんでもかんでも子守唄にしてしまう歌唱力

file.017『愛の贈りもの』リンダ・ロンシュタット

 前回に続いて、女性ヴォーカルによるカヴァー集を。

 リンダ・ロンシュタットが1996年に発表した『愛の贈りもの』という、あまり知られていないアルバムがある。原題は「Dedicated To The One I Love」、愛する人に捧げるという意味だから、邦題は適切だと思う。

 このアルバムのコンセプトは、彼女の好きな歌を子守唄にしてしまうというもの。もともと子守唄として作られたのは、1968年にブラームスが書いた「ブラームスの子守歌」くらい。あとはどれもゴキゲンなポップソングばかりだ。クイーンの「ウィー・ウィル・ロック・ユー」という、どう転んでも子守歌になりそうにない曲まで、しっかり子守唄にしてしまっている。

 もともと子守唄ではない曲を子守唄にするのは容易なことではない。それを成さしめたのは、ひとえにリンダの表現力の幅の広さだろう。〝ミス・アメリカ〟と異名をとっていた頃とは別人のように、ウィスパー・ヴォイスが板につている。

 もともとリンダの歌唱力には定評があった。声量はないが、鼻にかかった甘酸っぱい声質はファンのみならず、多くの男性ミュージシャンをメロメロにした。リンダの尻を追って西海岸にたどり着き、リンダのバックバンドを経て結成したのがイーグルスというのはよく知られた話だ。ドン・ヘンリーもグレン・フライもリンダに首ったけだったし、ジョン・D・サウザーやジェームス・テイラー、はてはミック・ジャガーまでリンダの魔性にからめとられてしまった。

 いかしたオールディーズやロックのカヴァーをはじめ、極上のポップソングからジャズのスタンダード、あるいはカンツォーネまで、リンダの守備範囲は驚くほど広い。とりわけ、40歳を過ぎ、太り始めてからのリンダの歌唱力はぐーんとアップした。高音はそれまでに増して澄んで伸びやかになり、課題だった低音のヴォリュームも増した。アーロン・ネヴィルとのデュエットなど、何度聴いても惚れ惚れする。

 本作の紹介に入ろう。曲目は、

1 愛する貴方に(Dedicated to the One I Love)      

2 ビー・マイ・ベイビー(Be My Baby)   

3 イン・マイ・ルーム(In My Room)       

4 愛をいつまでも(Devoted to You)       

5 ベイビー・アイ・ラブ・ユー(Baby I Love You)      

6 愛をいつまでも(Devoted to You – instrumental)          

7 エンジェル・ベイビー(Angel Baby)   

8 ウイ・ウィル・ロック・ユー(We Will Rock You)  

9 ウィンター・ライト(Winter Light)       

10 ブラームスの子守歌(Brahms’ Lullaby)

11 グッド・ナイト(Good Night)

 トータルで30分に満たない作品だが、これほど心の襞に深く沁み入るアルバムはなかなかない。ハープやストリングスが効果的に用いられている。子供ならずとも、眠る前に聴けば、穏やかな心で眠りの世界へ移っていけるだろう。

 選曲もいい。エヴァリー・ブラザースの「愛をいつまでも」がいちばん好きだが、ロネッツの「ビー・マイ・ベイビー」「ベイビー・アイ・ラヴ・ユー」、ビートルズの「グッド・ナイト」、ビーチ・ボーイズの「イン・マイ・ルーム」などスタンダード・ナンバーが続く。ヴァレリー・カーターと歌うクイーンの「ウイ・ウィル・ロック・ユー」も違和感なく子守唄になっている。予定調和で終わらせないというリンダの意思が伝わってくる。

 余談ながら、リンダのデュエット集『デュエット』もお薦め(右上写真)。

 

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