強力な個性が集まり、調和をなす
ヴィクトル・ユゴー原作のミュージカルといえば『レ・ミゼラブル』とくるが、『ノートルダム・ド・パリ』もそれに劣らず魅力満載。筆者はこちらの方が好きだ。
なんといっても曲がいい。ミュージカルというより、ロック・オペラ。大胆なサウンドとメロディーが「これでもか!」と続く。
フランス語の作詞はリュック・プラモンドン、作曲リシャール・コッシアンテ、英語版の作詞ウィル・ジェニングスという顔ぶれ(本アルバムは英語版)。
キャスティングは、エスメラルダ/ティナ・アリーナ、カジモド/ガルー、グランゴワール/ブリュノ・ペルティエ、フロロ/ダニエル・ラヴォワ、クロバン/リュック・メルヴィル、フルール/ナターシャ・サン=ピエールという布陣。ナターシャ・サン=ピエールが好きな私にとって、超がつくほど魅力的な顔ぶれだ。
カジモドを演じるガルーの声がいい。一瞬にして、ノートルダム教会に住むカジモドを彷彿とさせる。対するエスメラルダ役のティナ・アリーナはジプシー風の声色で、これまた個性的。どうしてこれほどハマリ役のキャスティングができるのか不思議でさえある。
ふと、雑感。
日本人のオペラ歌手はかなりレベルが上っていると思う。が、ミュージカルとなると、「?」と思わざるをえない。正しく歌うことばかりに意識が向けられ、個性を失っている人が多いと思うのだ。
以前、クラシック界の優秀な若手日本人演奏家4人がカルテットを組んで活動を始めたというテレビ番組を見たことがある。そのとき、2人が国内で学び、2人は海外で学んでいた。
とても興味深いシーンがあった。国内組はひたすら楽譜に忠実に演奏しようとするのだが、海外組は楽譜に書かれていることを踏まえながら自分の表現に重きを置いていた。当然、意見が食い違う。通常、日本で学ぶと、まずは基礎をきちんと習得し、それから自分の表現をとなるパターンが多いが、ヨーロッパの指導者は「ちょっとくらい間違えてもいいから、自分の演奏を追求しなさい」と教えるケースが多い。
オペラよりミュージカルの方が自由度が高い。それだけ配役に合った個性を求められる。日本のミュージカルがイマイチ(失礼)と思えるのは、そこに原因があるのではないか。
このアルバムにはボーバス・トラックとして、冒頭にセリーヌ・ディオンの「生きる、あなたのために」が収録されている。
何度聴いても極上の音楽劇を楽しめる、名盤中の名盤である。
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