めくるめくフーガの綾
この3曲は「これでもか!」というくらいしつこく聴いたから、全体を隅々まで覚えている。いつ聴いても、互いに長所も欠点も知り尽くしている旧友と会ったかのような気安さがある。
バッハと言えばフーガ。このジャンルは、2つの楽器で演奏されるため、さらにフーガの魅力が増している。あるときはチェロが先行し、あるときはピアノが先行し、あとを追いかける。知らないうちに先行する楽器が入れ替わっていることもある。それなのに、どこを輪切りにしても、調和がとれている。いったいなんなのだ、バッハは! 音楽の秩序を知り尽くしているのだろう。
この作品は、さまざまな演奏家で揃えているが、最も好きな演奏は、グレン・グールドとレナード・ローズが共演したもの。音の粒がはっきりしていて、フーガが際立っている。それ以上に音がブツブツと切れているのがパブロ・カザルス盤。まるでノコギリを引いているかのように武骨な音。それでもカザルス特有の味わいがある。音はきれいであるほどいいという定見を覆している。
真逆といえるのが、ミッシャ・マイスキーとマルタ・アルゲリッチ盤。シルクのように滑らかな音が魅力。今井信子やキム・カシュカシャンら、ヴィオラ奏者による演奏も新鮮な印象があり、アンナー・ビルスマの古楽器は深い味わいがある。
第1番の第4楽章、アレグロ・モデラートが特に好きだ。3つの声部が綾をなし、めくるめくフーガを展開する。
第2番の章のつなぎはニクいほど自然なリレーで、音楽を知り尽くしたバッハの真骨頂といったところ。
第3番はチェロ協奏曲にしてほしかったと思うくらい、変化に富んでいて、聴かせどころ満載。
おそらく何万回聴いても飽きがこないだろう。そういう作品を毎週のように作っていたバッハは、やはり〝音楽の父〟である。
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