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紺碧の将

図抜けた表現力が光る、シャンカールの秘蔵っ子

file.059『ドント・ノー・ホワイ』ノラ・ジョーンズ

 2002年、初めてこのアルバムを聴いたとき、すごいヴォーカリストが現れたものだと思った。弱冠22歳ながら、成熟した大人の女性を醸している。

 ジャケットの写真はなかなかの美女(のちに、かなり盛られていたことが判明・笑)。あれよあれよという間に全世界で1800万枚以上を売り上げ、グラミー賞では8部門を獲得してしまった。

 ほどなくして、ビートルズに多大な影響を与えたシタール奏者ラヴィ・シャンカールの娘ということがわかり、大いに納得した。ラヴィ・シャンカールは、ビートルズ解散後、ジョージ・ハリスンが催した「バングラデシュ・コンサート」でトップバッターを務めており、全世界にインド音楽を知らしめた人だ。

 当初、ノラ・ジョーンズはジャズ・アーティストと見られていたようだ。たしかにジャジーではある。しかし、カントリー風ありソウル風ありで、ポップなナンバーも多い。新しいタイプのジャンルレス・アーティストと言っていい。それが文化や世代を超え、支持された理由だろう。

 1曲目の「ドント・ノー・ホワイ(Don’t Know Why)」は、ピアノに誘われて発するノラの第一声がいい。ハスキーでスモーキーで温もりがある。聴く者の耳をスーッとすり抜けて心へと沁み込んでくる。奇をてらったところはひとつもないのに、深い印象を残す。わずか1小節で聴き手を支配するグリップの力がある。

 アルバムの原題のタイトル曲「カム・アウェイ・ウイズ・ミー(Come Away With Me)」ではしっとり歌い上げ、「アイヴ・ガット・トゥ・シー・ユー・アゲイン(I’ve Got To You See You Again)」はブルージーな雰囲気の調べを情緒豊かに聴かせる。かと思うと「ワン・フライト・ダウン(One Flight Down)」は軽快なカントリー調で、ノリがいい。

 ……と、1枚のアルバムに、ノラの多面性が凝縮されている。経験の浅いヴォーカリストは単調になりがちだが、すでに何十年もキャリアがあるかのような堂々とした歌いっぷりだ。

 ところで、彼女のアルバムはその後も楽しみにしながら入手してきたが、いまのところ、デビュー盤を超えているものはない。本欄で紹介したフィリッパ・ジョルダーノやZAZにも言えるが、最初の作品で頂点を極め、それ以降、自己模倣の罠に陥る人は少なくない。

 原題は『Come away with me』なのに、邦題が『ノラ・ジョーンズ』になったり『カム・アウェイ・ウイズ・ミー』になったり『ドント・ノー・ホワイ』になるのも変だ。

 ニューオリンズの小さなライブハウスでのライブ演奏を収めたDVDを持っているが、これがなかなかいい。小さな会場で彼女のライブを聴きたい。こうまで名の知られたアーティストになった以上、叶わぬ願いだと思うが……。

 

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