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『資本論』はだれも実践できない(5)

2021.03.19

共感できるところ

 

 これまで、マルクスの思想や社会主義思想、共産主義思想、そして斎藤幸平氏の解釈に反論することが多かったが、『資本論』には共感できることも書かれている。不公正にならないよう、ここでは共感できることをあげたい。

 資本主義経済は、成熟するにつれ、効率化が進むが、それは労働者にとって〝快適さ〟を意味しない。資本主義のもとで求められるのは、労働者を重労働や複雑な仕事から解放する新技術ではなく、彼らがサボらず、文句も言わずに、指示通り働いてくれるようにするためのイノベーション、つまり労働者を支配し、管理するための技術だとする主張はそれなりに同意できる。

 現実に、組織の規模が大きくなるほどその傾向は顕著となり、あたかも社員は会社の従属物とばかり、詳細な労働規約があてはめられる。

 また、効率化を求めるため、より細かい分業化が進み、一人ひとりの労働は部分でしかなくなり、何年働いても分業システムのなかでしか働けないという指摘ももっともだ。言い換えれば、不満のある社員が辞めてもすぐに補充が効くシステムであること。川上から川下まで、ほぼ自分で完結した昔の職人とは正反対といっていい(それらのことを皮膚感覚で察知したのか、私は経営にあまり効率化を求めず、そのため社則は無きに等しい。また、一人ひとりが川上から川下まで行うことが多い。こんなスタイルの会社はごくごく少数派だろう)。

 マルクスの主張で最も共感できるのは、資本主義の収奪欲は自然にも及ぶということ。マルクスの時代に生きた化学者ユストゥス・リービッヒは「近代農業が、できるだけ多くの収穫(利益)を得るために、短期間で徹底的に土壌の養分を奪い去り、しかも土壌に養分を補充しないのは略奪行為だ」と強く批判したというが、第一次産業に分類される農業でさえ、資本主義の手先になっていると説く。

 ときどき、斎藤幸平氏の目は冴える。

 ――自然の時間に合わせることのできない資本は、作るだけ作って「商品」として売り払い、あとは野となれ山となれ、「大洪水よ。我が亡き後に来たれ!」が資本家のスローガンです。「商品」の消費地である都市の生活は豊かになりますが、その裏で、地方の農村は土壌疲弊というツケを払わされ、貧しくなっていきます。

 ――19世紀の産業都市が地方の農村にツケを払わせたように、自然からの掠奪を放置している現役世代は、そのツケを将来世代に払わせ、また、先進国の放埒な生活は、その代償を途上国や新興国に押しつけています。

 ――日本の国土の約7割が森林で、杉や檜が伐採されず荒れ放題になるくらい恵まれているにもかかわらず、安い木材を海外から大量に輸入し、国内の林業を衰退させているのです。しかも、集成材や合材といった、質的に劣るものをわざわざ二酸化炭素を排出しながら輸入し、他国の森林を破壊しているのです。

 ――人間と自然との物質代謝は、本来、円を描くように営まれる循環的な過程です。しかし、資本の運動は、常に一方的、労働者や自然から一方的に奪い、そのコストも、一方的に外部に押しつけます。生態系のシステムは複雑に絡み合っているので、どこか一か所に不具合が生じると、連鎖して、あちこちに不具合が生じてしまいますが、資本主義は、そうした複雑さや相互連関には無関心です。商品というのは、あらゆるものに値札をつけることで、すべてを比較可能で、交換可能にしてしまいます。それは便利でもありますが、そのような単純化はしばしば極めて暴力的なものとなります。本来、比較不可能な富を一つの抽象的な尺度で測ってしまうのですから。

 

 いずれも「その通り!」と膝を打ちたくなる。

 一方で、だからどうすればいいのか、となると、いきなり理想主義になってしまう。そう、まるで前世紀の後半に世界中の共産主義国家に見られたような思想の原理主義化である。斎藤氏はこう書いている。

 ――社会の富が商品として現れないように、みんなでシェアして、自治管理していく、平等で持続可能な定常型経済社会を晩年のマルクスは構想していたのです。

 ――コミュニズム(共産主義)は贈与の世界といっていいでしょう。対価を求めない「贈与」、つまり、分かち合いや助け合いの相互扶助によって、富の持つ豊かさをシェアしていこうということです。

 

 彼は、上のような、現実にありもしない理想主義を抱いて革命を成就した前世紀の指導者たちが、その後、どのような政治体制を築いたか、知らないわけではないだろうに。次回は、共産主義が人類にもたらした、未曾有の災厄についてふれてみよう。(次回に続く)

(210319 第1066回 写真は風力発電設備と太陽光パネル)

 

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