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紺碧の将

懸命に、生きようと

2020.04.04

 人の声がしない。それに呼応してか、いつもは毎朝忙しく会話を交わしている鳥たちの声も聞こえない。

 悪性ウイルスの発生を知りながら事実を隠蔽し、そのため対策の初動が遅れ、さらに中国と癒着したWHOの事務総長が中国を貶めないよう事実を軽視したことによって、こんなに短時日に世界中に広がってしまった。中国の罪は、どう糊塗しようが免れるものではない。

 

 ふいに以前、『Japanist』の対談でご登場いただいた山澤清さんの言葉を思い出した。少し長くなるが、引用しよう。

「文明の賞味期限ってのは、土壌の劣化にあるの。歴史を見るとわかるけど、ヨーロッパの国々、世界中の文明は土壌の劣化で滅びてる。古代ローマもそうだ。土壌の流出が土壌の劣化なの。1500年ごろによ、ヨーロッパ人が南アメリカさ行ってジャガイモを持ってきただろ? あれは花は咲くけども、ほとんど無性生殖のものを切って増やすのよ。そうすっとウィルスがぜんぶ内在してっから、あんまりいっぱい植えると植物が自分で自分を殺す、自死すんの。人間だけだよ、自殺率少ないのは。受粉できないと植物は死ぬんだよ。なんでかってえと、同じ病気が蔓延すっから。だから、ヨーロッパでかなり人死んでるよ。人間が人工的にやっちゃうと、そういう危険が常に孕むってこと。野菜なんかとくにそう。畑と田んぼの違いって、畑は水が撹乱しないから同じ場所に同じ作物を作っと連作被害を起こすの。本来は、同じものができないように、植物は1本から花が咲いたら実がついて、自分は朽ちる。それで、種はなるべく自分より離れたとこさ落とすの。人間だってそうだろ? 女の人は自分のお父さんと違う遺伝子を欲しがる。年頃になると父親を嫌がるようになるべ。あれは、遺伝子にそう組み込まれてるからだ。でねえと、近親相姦になっちゃうんだもの。女の子がさ、お父さんのパンツ汚いって箸でつかんだりしてさ。ひどい話だろ(笑)。女はそれができんだもの」

 今だからか、とても多くの示唆に富んだ言葉である。

「文明は感染症の揺り籠」だという長崎大熱帯医学研究所教授の山本太郎氏は、読売新聞のインタビューでこう語っている。

「流行するウイルスを選び出し、パンデミックへと性格づけるのは、その時々の社会のあり方ではないか。私たちの社会にはいつもさまざまなウイルスが入り込もうとしている。たまたま社会がそれに適応した状態になっていると、ウイルスが入り込み、わーっと広がっていく。たとえば、エイズウイルスはアフリカのチンパンジーに寄生していました。そのチンパンジーを食べた人間が感染します。感染を拡大させたのは、植民地政策と近代医学の導入という当時の社会状況です。植民地での都市づくりのためにたくさんの男性労働者が街に集められました。男女の比率がすごくいびつになり、売春が流行します。一方で慈悲的な意図から、アフリカの風土病の注射治療も行われました。ただ、注射器は使いまわしでした。そうやって感染が広がる土壌が生まれます」

「ここ50年から100年ぐらいの間に新しいウイルスがどんどん見つかっています。人間がものすごい勢いで地球のあらゆる場所へ進出し、熱帯雨林などを破壊しているためでしょう。野生動物とウイルスが調和的に過ごしていたところに人間が侵入し、調和を壊す。すると今度はそのウイルスが人間の社会に入り込もうとします」

 

 現在、新宿御苑は閉園中だが、閉園になる直前、こんな光景を見た。昨年の台風で根こそぎ倒れ、幹を切られたまま無残な姿を晒していた桜が、なんと、花を咲かせたのだ! 根っこはほとんど土の中にない。それなのに、あでやかな花を咲かせた(右上写真)。

 誰一人、その桜に目を向ける人はいなかったが、私は完全に足止めされ、しばらくその桜と無言の対話をしていた。

「えらいな、おまえ。もっと生きていたいんだよな。きれいな花を見てもらいたいんだよな」

 手を合せてその場を立ち去るとき、とても後ろ髪を引かれた(引かれるほどの後ろ髪はないが)。

 健気だよ、その桜は。あっぱれとしか言いようがない。われわれも見習わなきゃ。

 

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(200403 第982回)

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