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ココロバエ
美し人

金山開発に見る、殖産興業・富国強兵

2019.05.02

 前回書いた下部温泉郷の入り口に「湯の奥金山博物館」がある。甲州金の採掘に関する諸々が展示されている。砂金採り体験もできる。

 見ながら、なるほどと思ったことがいくつもある。経済力がなければ戦争に勝てないのは昔も今も同じ。甲斐は農地が少ないため、コメの産出量が少ない。海がないため、交易も滞る。そのような逆境にあって、武田信玄は金をもって殖産興業・富国強兵にあてがったのだ。

 父・信虎の悪政に嫌気が差し、一度国外に逃れた武将たちから帰参したいと申し出あったとき、若き晴信(信玄)は「諸国をまわり、武田家にとって有益な土産物を持ってくるならば」と突き返した。すぐに家来にするより、その方が有益だと考えた。

 数年後、そのなかの一人、今井兵部が3人の金山師を連れてきた。諸国の山々をめぐっては金槌で岩を叩き、鉱山を発見することを生業とする男、鉱山が見つかるや測量・縄張り・坑道の掘削などを行う振矩師(ふりぐし)、金を含んだ石から金を抽出する技師の3人である。晴信は大いに喜び、金山開発を奨励する。

 金を抽出するには、灰吹き法という手法を用いる。石を砕いてすり潰し、水にさらして石と石でない物を分け、焼いた後、鉛の湯に入れる。一度、金と鉛が付着するが、灰で鉛を吸い取らせて、金を選り分けるのである。そのすべてが重労働である。

「仇は敵なり」と言っていた信玄だが、一度、降伏し、許した者が反旗を翻した場合は容赦しなかった。男は金鉱労働者として重労働をさせ、女は金鉱労働者の慰み者、子供は奴(やっこ=奴隷)にした。

 信玄は豊富な甲州金を軍資金として、戦国有数の大名へのしあがっていく。また、金鉱労働者は坑道を掘削する術に長けていることから、戦の際、「モグラ隊」として敵の城の水脈を断ち切るなど、さまざまに活用していた。人の使い方がうまかったのだ。

 

 ところで、これまでに人類が採掘してきた金の総量は約18万トン、まだ採掘されていない埋蔵量は約5万トンと考えられていると、あるサイトにあった。

 そんなに地下を掘りたがる生き物は、モグラと人間しかいない。

 

髙久多美男著『葉っぱは見えるが根っこは見えない』発売中

https://www.compass-point.jp/book/happa.html

 

「美し人」公式サイトの「美しい日本のことば」をご覧ください。その名のとおり、日本人が忘れてはいけない、文化遺産ともいうべき美しい言葉の数々が紹介されています。

https://www.umashi-bito.or.jp/column/

(190502 第897回 写真上は甲州金、下は磨り臼)

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Profile

髙久多美男

髙久多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

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