多樂スパイス

3バカ旅姿

2010.01.31

 やむにやまれぬ理由が重なり、男三人で温泉へ行った。

 メンバーはけっして明かせないが、仮に信州在住の炭焼き師Sと某辣腕政治家秘書Yとしておこう。行き先は松本の浅間温泉である。

 宿選びはYの得意技が炸裂し、「最上階・スイート・貸し切り風呂付き」とあいなった。男三人で貸し切り風呂はないだろう! と一般的には思うはずだが、実際にありえるところに人間存在の面白みがある。

 どうしてこういう事態になってしまったのか、いまもって不思議なのだが、要するに、男三人枕を並べて寝ることがどんな感懐をもたらすのか、実験してみようということでもあった。

 

 当日、ある蕎麦屋で待ち合わせをしたのだが、満面の笑みでやってきたSの表情が脳裏にこびりついて離れない。たぶん、臨終の間際まであの笑顔は忘れられないだろう。待ちに待った日ということはわかるが、そこまで喜んでいいのだろうか。本人は照れ隠しで、「今日という日が来るのが怖かった。早く今日が過ぎてほしい」と、これまた満面の笑みで言っている。言葉と表情を連動させることはじつに難しいのである。

 対するYは終始冷静沈着で、蕎麦屋でも宿に着いてもパソコンで仕事をしている。パソコンなんぞ、放り投げてハメをはずせばいいのになあと思いながら、私は一人だけで風呂に向かった。

 

 今回は別の遊興が企図されていた。つまり、白フンドシと赤フンドシのどちらに軍配が上がるか?

 その審判役に私が買って出たのだが、結局、最後まで冷静・沈着でいることがかなわず、「その時」が近づくにつれ、動悸・息切れが激しくなってきたので、無言のうちに勝負を延期させていただいた。まだまだ修業が足りないと痛感した次第である。

 こういう時、日本人同士は話が早い。その場の空気で相手に伝えることができるのだから。

 「本来なら、そろそろ勝負の時間だが、どうも気持ちの整理がつかない。しかるに、それぞれ微妙に時間をずらして風呂に入ろうではないか」というメッセージが言葉にならなくとも伝わってしまうのだ。

 暗黙のうちに同意したわれわれ三人は、じつにうまくその「事態」を避け、それでいてさまざまな議題で盛り上がり、就寝の時間を迎えたのであった。

(100131 第147)

 

 

 

 

 

Profile

高久多美男

高久 多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

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