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紺碧の将

生命の源、塩の島

2018.12.06

 沖縄にはいい塩がたくさんある。

 いつからか、塩はとんだ悪者になってしまった。減塩=健康という図式が国民の間に定着し、あっちからもこっちからも塩を減らせと言われている。

 食塩と塩が混同されていることが、そのような事態を招いた元凶だ。巷間言われている塩は、海水だけでなくミネラルも抜けて塩分の塊になったもの。海外から安く入ってくる輸入塩に対抗するため、昭和46年、政府がそれまでの自然製法を禁じ、イオン交換膜による製造を始めたことに起因する。それによってできたのは工業製品のような塩で、自然界の塩とは程遠く、これでは健康を阻害するのは当たり前。

 本来の塩は命の源ともいえるミネラルを豊富に含み、それなくして生命は維持できない。血液や羊水が海水の成分とほぼ同じということはよく聞く話だが、それだけをもっても塩がいかに重要か、わかろうというもの。

 

 うるま市の「ぬちまーす」製塩ファクトリーで塩製造の工程を見学した。沖縄本島の東岸、海中道路で宮城島へ渡ると、海を見下ろす崖の突端に赤い瓦屋根の建物がある。それがぬちまーすのファクトリー。1時間に数回、ガイド付きで工場を見学することができる。崖からの眺望は「果報バンタ」と命名されているほどの絶景。満月の夜、ウミガメが産卵に来るという。

 沖縄の方言で、「ぬち」は命、「まーす」は塩を意味する。ぬちまーすの製法は独特だ。創業者の高安正勝氏はそれまでランの栽培をしていたが、塩の専売が終わるというニュースに接し、「本物の塩をつくろう」とひらめきを得る。そして、独自に製法を開発した。

 一般的に製塩法にはいくつかある。前述の交換膜法は海水をイオン分解し、膜で集める。当然、ミネラルは除去される。その他、釜で茹でる方法、天日に干す方法、地中の岩塩を掘る方法もミネラルの多くは除去されてしまう。高安氏はミネラルを極力残すため、次のように考えた。

①海水を3段階で吸い上げ、その都度フィルターで漉す。

②円盤を高速回転させ、海水を細かい霧にする。

③その霧に常温(約50度)の温風を当て、水分だけを瞬時に蒸発させる。

④海水に溶けていた塩分、にがり(塩分以外のミネラル)が空中で結晶し、密閉された室内に降り積もる。

⑤降り積もった塩を粗目に乾燥させる。

 この「瞬間空中結晶製塩法」は、世界で唯一、ぬちまーすだけが行っているという。

 ぬちまーすの塩には「さらさら」や「しっとり」などがあるが、パウダー状でいかにも自然の一部といった雰囲気を醸している。鯛など白身魚の刺し身にはピッタリ。淡白な味をうまく引き立てる。

 

 那覇市内いちばんの繁華街である国際通りに「塩屋」(まーすやーと読む)という塩の専門店がある。店内には沖縄の塩はもちろん、世界の塩も含め、360種類が並べられている。しかも、塩屋は沖縄に4店舗のほか、麻布十番と東京ソラマチにも店を構えている。店内ではテイスティングもできるから、ついあれもこれもと欲しくなる。

 いいのか悪いのかわからないが、私は欲しいモノがほとんどなくなってしまった。しかし、いい調味料は欲しい。なぜなら、体が喜ぶから。ひとつ数百円のモノで体も心も喜んでくれるなんて、じつに経済的である。

 食事の時、食卓にいろいろな塩を並べ、どの料理にどの塩が合うか、試している。いずれも美味しく、命の源がじんわりと体の奥に沁み込んでくるのがわかる。

 沖縄へ行ったら、ぜひ塩の専門店へ。

 

「美し人」

美の生活化―美しいものを人生のパートナーに

 

※悩めるニンゲンたちに、名ネコ・うーにゃん先生が禅の手ほどきをする「うーにゃん先生流マインドフルネス」連載中。第33話は「どんな日も〝いい日〟につながっている」。

https://qiwacocoro.xsrv.jp/archives/category/%E9%80%A3%E8%BC%89/zengo

(181206 第862回 写真上はぬちまーすの工場。下は塩の専門店「塩屋(まーすやー)松尾店)

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