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360度、大パノラマ

2018.08.10

 西穂高岳に登った。

 とはいえ、奥穂高岳からの縦走ルートを突破するほどの勇気も体力もない。新穂高温泉口から登るルートで、独標までを往復したというていどだから、あまり胸を張って言える登山ではないが、それでも大いに満喫した。

 今、登山の目的は登頂や踏破ではなく、「山を楽しむ」ことに変わっている。命は賭けられないし、怪我もできない。慎重を期して、「今年も山に登れて良かった」と思えることが第一番の目的である。

 台風が接近しているという情報が入っていたが、結果的にまったく台風の影響を受けなかった。私はいつも楽しみをはずさない人間だ。ずっと前からそうなっている。

 

 今回泊まった西穂山荘の支配人は気象予報士でもある。彼は若い頃、気象に興味をもったが、どの専門書を読んでもつまらない。そこで、自分なりに勉強したという。好きこそものの上手なれ。今ではテレビにもよく登場するという。

 夕食の前、翌日の天気予測を語ってくれた。ニュースでは台風の影響を報じていたが、彼は「お昼少し前に雨が降るかもしれないが、すぐにやむ。午前中は雲海がきれいに見えるようになるのでは」と言ったが、見事に当たっていた。あんなふうに自然の動きが読めたら毎日がもっともっと楽しいだろうな。

 山荘診療所に関わる東邦医科大学のドクターの講演もあった。平地と高地ではどう違うのか、というテーマ。それはつまり、「なぜ、山で足がもつれるか?」というテーマでもある。事実、私はその日に経験していた。独標に登った時、ほんの少しふらついたのだ。意識はしっかりしていたのに。少しのふらつきが滑落につながる。独標の最後の急斜面でミスをすれば、命に係わる。山を下りながら、どうして足がもつれるのか、その理由を考えていたが、私の推論がほぼ実証されたような気がして嬉しかった。それはこういう理屈である。

 高地では酸素が少ない→酸素は糖と結びついてエネルギーの素となる。体は多くの酸素を確保するために心拍を上げる→いちばん優先される部位は脳。必要な酸素が足りなければ、他の部位を犠牲にして脳に送り込む酸素を確保する→だから、足元がふらつくという理屈だった。身体のレギュレーションはじつに緻密である。意味のないことはしない。

 下山途中、見事な雲海を見た、360度、大パノラマ、雲海から頭を出している山々と青空のコントラスト。あの感動は平地では絶対に味わえない。絶景を生で見る感動は、どんな芸術作品も勝るかもしれない。

 来年はどこへ行こうかな。

 

※悩めるニンゲンたちに、名ネコ・うーにゃん先生が禅の手ほどきをする「うーにゃん先生流マインドフルネス」、連載中。今回は「いい時も悪い時も同じ」。

https://qiwacocoro.xsrv.jp/archives/category/%E9%80%A3%E8%BC%89/zengo

(180810 第833回 写真上は西穂高岳独標。下は笠ヶ岳から続く錫杖岳の雲海)

 

Profile

高久多美男

高久 多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

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