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紺碧の将

生々しく残る、東京裁判の空気

2017.10.03

 前回に続き、市ヶ谷記念館の話題を。

 なんといっても最大の見所は、極東国際軍事裁判(東京裁判)の舞台になった旧陸軍士官学校講堂(現在は大講堂と呼ぶ)である。

 建物が物語るとはこういうことを言うのかと万感胸に迫ってきた。生々しく、沈鬱な空気が澱になって重なっているのだ。

 正面向かって左側に被告席が、その周りに検事など連合国側の席があり、右側に日本側代表団の席があった。

「ここで世紀の茶番劇が演じられたのか……」

 そう思わずにはいられなかった。

 東条英機など7名はA級戦犯として死刑判決を受けるが、A級戦犯とはそれまで国際法になかった「平和に対する罪」を犯した者である。通常、事後立法で裁くことはできないが、当時の日本側にそれを撥ねつける力はなかった。

 極めつけは、「平和に対する罪」を楯に日本を弾劾していた連合国の何カ国かが、同時期に東南アジアを侵略していたことだ。日本が降伏したことによって、東南アジアを再び植民地化しようとしたわけだ。ソ連などは、日本が降伏する前に日ソ中立条約を一方的に破棄して満州に攻め入り、60万人近い日本人を拉致してシベリアに抑留させた。生き残った元兵士の手記を読んだことがあるが、その過酷さは言語を絶するものがあった。そういう国々が「日本は平和に対する罪を犯した」と声高に主張していたのである。〝国際正義〟とはそういうものであろう。

 ただ、たしかに東京裁判は世界史に類例がない裁判ではあるが、それを今、国際社会で蒸し返しても仕方がない。私たちは、あの裁判から何を教訓とするのか、それが大切だ。結局、力のない者は、どんなことをされてもやむをえないということ。はからずも、東京裁判がそれを教えてくれた。

 

 大講堂の造りにも驚いた。正面の壇には昭和天皇が座られた玉座があるが、そこから反対側の二階席を見た時、玉座の方が高く感じられるよう、さまざまな工夫がされている。反対に、二階席から見た時は、玉座が高く感じられるよう、一点透視遠近法によって造られている。また、天皇が玉座に昇られる時の階段は、少しでも負担を減らすための工夫が凝らされている。

 ガイドからそういった説明を聞いた団塊風オジサンが「過保護なんだよ」と毒づいていたが、過保護とかそうでないという話ではない。天皇への個人崇拝ではなく、長く続いてきた日本という歴史に対する最大の尊崇を表しているのだ。それがわからない屁理屈オジサンには退場していただくのが筋だろうが、〝大人〟である私は黙って聞いていた。

 大講堂には、硫黄島で有名な栗林中将の手紙や阿南陸軍大臣が来ていた軍服など、さまざまな物が展示されている。これらも見所満載である。

(171003 第756回 写真上は東京裁判の舞台になった大講堂。下は市ヶ谷記念館外観)

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