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紺碧の将

忙中オペラあり

2009.04.06

 今年は仕事をするぞ、と覚悟を決めて元旦を迎えた。

 その通りの経過となっている。1月は正月もヘチマもなく無休。2月の休みは1日だけ。3月も無休。創業期に匹敵する仕事ぶりである。いや、あの当時より忙しい。なぜなら、22年前はアナログだったので、ある程度仕事にセーブがかかったが、今はデジタル時代。どこにいてもパソコンがあればできてしまうし、多くのメールが休日関係なく送られてくる。完全に仕事を断つにはパソコンや携帯を持たずに海外へ行くしかない。

 だいたいこんな日々である。

 朝食を済ませ、まず書斎で第1ラウンド。この時間帯が最も頭が冴えているので、難解な原稿はだいたいこの時を利用して仕上げる。

 次いで会社へ行って第2ラウンド。無駄なお喋りをしている余裕はない。ずっと集中して仕事を続けて、定時を過ぎた頃、家路に。

 夕食をとり、風呂に入ってから再び、書斎へ入り第3ラウンド。ずっと仕事をしっぱなしではないが、読書か仕事を続け、疲れたら寝る。

 休日は原稿かイベントに参加……。そんな日常である。

 人が一日に集中できるのは3時間が限度、と誰かが言っていたが、おそらく10時間以上集中しっぱなしで3ヶ月間を終えた。われながら、よくぞあれだけの膨大な仕事をこなしたものだと感心する。

 ある日、あまりにも疲労困憊が続き、「もう死にたい。楽になりたい」と呟いていたら、家人は笑いながら、「どう見ても楽しそうに見えるけど」と言ったのだった。どうやら現状が伝わっていないらしい。困ったことである。

 3月までの仕事の成果は『fooga』『Japanist』『たらく』の3誌の他、書籍や小冊子、そしてさまざまな広告物となって今月現れる。楽しみである。

 ところで、2月にとれた1日だけの休日は、突然の予定変更によるものだった。土曜日、都内で予定されていたアポが延期になったのだ。前々日から都内に泊まっており、翌日の日曜日も都内でアポがあったので、急いで宇都宮に帰っても無駄なような気がし、そのまま時間を過ごすことにした。

 そういう時、東京はやはり快適である。久しぶりにクラシックのコンサートでも聴こうと思い、ホテルのネットで検索した。東京都文化会館でオペラ『ラ・トラヴィアータ』が上演されるという。

 さっそく電話すると、まだチケットが残っていた。

 オペラの人気作(『ラ・トラヴィアータ』というよりも『椿姫』という日本語訳で有名)は、宮本亜門の演出によりまるで新作のような新鮮味があった。どういう意図かわからないが、舞台はあらかじめかなりの傾斜がついている。そこで役者たちは平然とした表情で演技し、歌う。声量はたしかに西洋人に劣るが、細かい身振りでの多彩な表現はさすが日本人。東京フィルの弦も絶妙のハーモニーを響かせていた。弦楽器が完璧に調和した時の音を聴くとゾクゾクする。多忙な合間の観劇であっただけに、とりわけ心に沁みた。

 毎日が暇でしかたがないという状況で聴くのと、多忙な合間に聴くのとでは大きな違いがあるのだろうか。わからない。

 私はどっちに転んでも楽しいと思う。一週間何もしないでいられるし、狂ったように働き続けることもできる。嬉しいことに、50を前にしてそういう人間になれたようである。

(090406 第91回)

 

 

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