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宇宙の真理を知る大工たち

2016.06.22

木組み 以前、宮大工棟梁の小川三夫氏に取材した時のこと。

「重量計算や加重のかかり方など、建物をつくるためには基本的な建築工学の知識が必要だと思いますが、それらはどうやって学んだのですか」と訊くと、
「特別なことは必要ない。規矩を学んで、あとはひたすら現場でいい仕事をしていれば、おのずとしっかりした建物になる」
 そう棟梁は言い切った。
 わずかにのけぞった。聞きようによっては、建築工学など学ばずとも、いい建物は造れると聞こえたからだ。たしかに、法隆寺を建てた大工たちは、建築工学など学んでいなかっただろう。
 規矩の規はぶんまわし=コンパスを、矩は曲尺や定規を意味する。つまり、規矩によって仕口や継ぎ手などの接合部を組み、建物の構造を造っていくというものだ。しかも、金属部品を使わずに。西洋の建築工学を学んだ人にとっては常識はずれにちがいない。しかし、現に築後数百年の木造建築物が日本中いたるところに建っている。これをどう説明すればいいのか。
 法隆寺には宮大工の口伝がある。口伝とはその名の通り、話し言葉によって継承されたものだ。
 ──伽藍造営の用材は木を買はず山を買へ
 ──木は生育の方位のままに使へ
 ──木組は寸法で組まず木の性癖を組め
 ──木の性癖組は緒工人の心組
 ──百論一つに統ぶるの器量なきは謹み班長の座を去るべし
 他にも同様の口伝は100以上もあるといわれる。どれも意味が深い。そして、どれも非合理だ。プレカットなど、もってのほかということになる。

 

羽黒山五重塔 根拠はないが、いにしえの大工たちは、宇宙の秩序を理解していたのだと思う。つまり、大自然にも人間にも通ずる、普遍的な真理を。なんとなれば、自然も人間も、そして木ももとをただせば同じであるのだから。
 昨年、羽黒山五重塔に見惚れたことを本欄に書いた。じつに美しい佇まいだった。森のなかに、忽然とひとり建っている。大河ドラマに出てくる姫君のように優美な姿で。その五重塔の木組みは、名状しがたいほど緻密で、整然としていた。
 以前、インドの木造寺院を見たことがあるが、木組みが恐ろしく粗末で、思わず笑ってしまった。エローラやアジャンタの石窟を造った民族だが、木組みのことはまったくわかっていない。
 もっとも、それが普通なのだろう。日本の大工は度を超えて万物の真理に通暁している。
(160622 第645回 写真上は羽黒山五重塔の木組み、下は外観)

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Profile

髙久多美男

髙久多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

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