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天心と六角堂とビストロ

2008.05.31

 『fooga』7月号から新しく始まる企画のプレゼンテーションも兼ねて、茨城県天心記念五浦美術館へ行ってきた。新企画とは、「岡倉天心が夢見た坂の上の雲」と題し、明治以降の岡倉天心の功績を毎号6ページを使い、半年にわたって連載するというもの。

 天心記念美術館は、私のお気に入りの美術館である。収蔵作品は少ないが、なんといっても日本画好きの私にはたまらない企画展をやってくれる。五浦は、中央画壇を追われた天心が、横山大観や下村観山ら若手の俊英たちを引き連れて、都落ちした時の行く先。太平洋岸に面し、フグ料理でも有名である。美術館は断崖の上に建つが、そこからの眺めはじつに素晴らしい。

 ここ数年、私は洋画を見ても、さっぱり感じなくなってしまった。これまでの惰性で、ときどき展覧会には行くが、正直、早く出口が来ないかなと思いながら見ていることが多い。まして、都内の美術館で、人が幾重にも絵の前にひしめいているのを肩越しに見ている時など、拷問以外のなにものでもない。

 そのかわり、ますます日本画が好きになっている。だから、天心記念五浦美術館の企画展はほぼ毎回見ている。

 その後、六角堂にも立ち寄った。太平洋を臨む岸壁に、天心が建てた六角形の瞑想場所だ。天心は、波に永遠性と絶え間ない変化を見いだし、宇宙の本質ととらえていた。

 そこで、天心はなにを思ったのだろう。西洋画に押されている日本画への憂慮か、はたまた日本文化の行く末か。六角堂の中に入ることはできないが、荒海を間近に、天心の当時の心模様を忖度することはできる。詩人・タゴールや北原白秋もここを訪れて天心を偲んでいる。

 五浦へ行ったらいつも立ち寄るフレンチのレストランがある。看板はフレンチとなっているが、厳密に言えば、ビストロだろう。「ル・ランベール」。畑に囲まれた、のどかな風景の中にある。

 その日、いちばん安いパスタセットを注文した。

 しかし、侮るなかれ。スープ、サラダ、パン、パスタ、ドリンクがついて980円也。しかも、スープもサラダもパスタもきちんと心をくだき、手間暇をかけているのが一目瞭然。スープがちょっと熱いのが気になったが、あとは申し分なし。その上、300円を追加すれば、約10種類のデザートの中から4種類を選ぶことができる。私は、タルト、ムース、シャーベット、ブリュレを選んだが、どれも手抜きはない。一つ当たりのサイズは通常の半分ていどだが、4個あるので、ゆうに2人分はある。

 あれだけ食べさせてもらって、ほんとうに1,280円でいいんですか! とクレームをつけたくなってしまう店だ。

 店内の壁がローズピンクなのだが、それが全体にしっくりしているところも感心する。ちょっとまちがえば、すぐさま奈落の底だ。あのような店が歩いて行ける距離にあったら、幸せだろうな、と思う。

(080531 第52回 写真は六角堂から見た五浦の海岸 )

 

 

Profile

高久多美男

高久 多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

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