多樂スパイス
HOME > Chinoma > ブログ【多樂スパイス】 > このチャーミングな佇まい

ADVERTISING

私たちについて
紺碧の将

このチャーミングな佇まい

2015.09.10

羽黒山五重塔 今年3回目の登山は山形県の月山を目指したが、残念ながら悪天候のため、登山口に着いたところで登頂を断念した。

 しかし、ほかに素晴らしい体験がいくつもあった。山寺として有名な立石寺、静謐で知的な宿「湯どの庵」、庄内イタリアン「アルケッチャーノ」での夕食、そして羽黒山五重塔である。
 今回は羽黒山五重塔について書こう。
 国宝・羽黒山五重塔はその名の通り、羽黒山の中にある。羽黒山、月山、湯殿山を出羽三山と称するが、いずれも霊山としていにしえの時代から崇敬を集めている。明治まで神仏習合の権現を祀る修験道の山々であった。
 随身門をくぐり、急な石段を下りていくと、すこしずつ毛穴が開いてきた。体がなんらかの反応をしているのだろう。
木々にとけ込む五重塔 雨あがりの空気は清浄だ。深閑とした森の中に、いく筋もの木漏れ日がさしていた。
 神橋を渡り、なだらかな上り坂を行くと、樹齢千年を超えると書かれた爺スギが目の前に立ちはだかった。恐れているのか、爺スギの近くで背を伸ばしているスギはない。
 太い幹のなかに、どのような神、いや生命体が宿っているのだろうと考えた。
 ふと、われに戻り、右奥に視線を移したときだった。林立するスギの幹には蔦性の草が絡みついて緑の柱が何本も屹立しているかの様相を呈していたが、その間に五重塔が見えたのだ。
 背筋がゾクゾクとした。口を半開きにしたまま、優美な姿に見とれていた。
木組み 伽藍の一部としての五重塔は見慣れている。法隆寺を例に出すまでもなく、本堂とセットになっている場合が多い(この神社の本堂は、なんと随身門から1時間弱ほど急な階段を登らなければ拝めない。なんともハードルの高い神社なのである)。
 しかし、この五重塔は森の中に忽然と立っているのだ。今までにこんなチャーミングな五重塔は見たことがない。それでいて、厳かで凜としている。化粧っ気もないが、美しさは際立っていた。こんなに美しい姿を拝めるのも、生きているからこそである。
 近寄って、木組みをまじまじと見た。以前、宮大工の本を書こうと思ったくらいだから木組みの技法について少しかじっていたが、あらためて見るとため息がもれた。こんなことを考えた日本人は、じつは宇宙人だったのではないかと思う。
 そう、われわれの先祖は宇宙人なのだ。
 前回のブログで嫌なことを書いたが、ああいう醜い行いに及ぶのも人間なら、こういう美しいものを造るのも人間だ。人間はじつに奥深い。
(150910 第578回 写真上は森に佇む羽黒山五重塔、中は木々の梢と五重塔、下は木組み)

【記事一覧に戻る】

ADVERTISING

メンターとしての中国古典(電子書籍)

Recommend Contents

このページのトップへ