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紺碧の将

現代のおとぎ話

2014.06.02

涙の菅野敬一 これほど清々しいパーティーがあっただろうか。
 先日、『SHOKUNIN』出版記念パーティーが神楽サロンで催された。主催はジャパニスト出版(神楽サロン)なので私ではない。しかし、実質的に取り仕切った身で自画自賛するのもナンだが、これほど清々しい空気に満ちたパーティーは今まで経験がない。来場してくれた方々が口々に「素晴らしいパーティーでした」「最高でした」と称賛してくれたが、お世辞は露ほども含まれていなかったと勝手に思い込んでいる。
 冒頭のスピーチで、私は菅野氏がこうまで至った理由として、「原理・原則を大切にしながら世の常識に縛られていない」「自分の心に忠実にモノづくりをしている」「売り上げを前提に仕事をしていない」「自然の移り変わりに敏感である」「友情も孤独も愛している」「江戸っ子気質を持ち続けている」などをあげた。これまで何度も取材してきた結果、そう思ってしまうのだ。
 そのうえで、こう続けた。「エアロコンセプトは現代のおとぎ話だ」と。どん底まで追い詰められた男が一念発起して、ひたすら自分が好きなモノをつくり、それが世界の目利きたちに評価されるなんて、おとぎ話以外の何であろう。
 でも、このおとぎ話はただのファンタジーではない。多くの人に応用可能なヒントがたくさん詰まっている、と。もちろん、この本はハウツーものではないので、それぞれが考えるべきことがたくさんあるのだが。

乾杯! 当日は、80人以上があの会場にひしめいていた。エアロコンセプトの愛用者で衆議院議員の山田宏氏は、「安倍総理に使ってもらえるようなカバンを菅野さんに作ってもらっている」と打ち明けた。「タラップを降りる時、奥さんの手を握っているのもいいが、エアロコンセプトを持っていたら、クール・ジャパンのシンボルとしてすごいインパクトになる」と。そうだよなあ、と納得。
 乾杯の発声は、アメリカ人のネイザン・エルカート氏にお願いした。若干30歳の彼は、先月から不肖・私が主宰する多樂塾に来ているのだが、難しい漢字はスラスラ読んでしまうし、メールの文面はあたかも知的な日本人のようだし、泉鏡花や中上健次を読んでいるという日本通。なにより、日本人の多くが失ってしまった礼儀正しさを備えている。井の頭線に乗っていて初めてエアロコンセプトに出会ったいきさつから現在に至るまでをユーモアを交えながら語ってくれた。
朗読 途中、サプライズというかナンというか、私が書いた詩を披露した。朗読者は里岡美津奈女史。
 このブログの前々回で私は来宮神社の大楠について書いたが、その直後、菅野氏からメールが届いた。「この楠、何度雷にうたれたことか」と。楠に自分を重ね合わせていることはすぐにわかった。
 じつは、私が書いた『倒木の精』という詩には、雷に打たれてしまうケヤキのことが書かれている。もしや、菅野さんは里岡さんからその詩の内容について聞き知ったのかと思った。あまりにもドンピシャだったから。もちろん、里岡さんは当日のサプライズだということを知っているので、詩のことなど明かすはずもなかったのだが……。
 そんなわけだったので、菅野氏が感銘を受けたのは言うまでもない。「おれが泣き虫なのを高久さんは知っているから、なにかやってくるんだろうなと思って、絶対泣くもんかと思っていたけど、してやられた。体中の水分が全部なくなってしまいました」と降伏のメールが届いた。エヘヘ……。
 まあ、意図してやったわけではないわけではなく(つまり、意図してやったのだが)、菅野さんが感動しないパーティーなんて、クリープを入れないコーヒーみたいなもんだから(古い?)、ついやってしまったというわけ。
 もうひとつ嬉しかったのは、多樂塾のメンバーにいろいろと手伝ってもらったのだが、メンバーの一人でもある菅野さんが、「多樂塾のメンバーは身内みたいだとあらためて思った」と言ってくれたこと。共に本質を学ぶ「同門」は、真の同志だ。遊び仲間以上に交感が濃い。
 利益よりも友情を大切にし、誇りある仕事を続けてきた菅野さんが多くの人たちから惜しみない賛辞を受けていたことがなにより嬉しい。どちらかというと他人の成功を妬む傾向の強いこの国にあって、あの場の空気にそういった感情が一片も交じっていなかったことだけは事実だ。
 菅野さん、これからも素晴らしい作品を作ってください。
(140602 第507回 写真上は、スピーチする菅野敬一氏。息子を慈しむように見つめるお母さんの目が印象的。中は乾杯の瞬間。下は詩の朗読。撮影者は森日出夫氏の薫陶を受ける藤間久子女史。さすが!)

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