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母なる海と大地のおにぎり

2014.04.06

清子さんのおにぎり 私はいいモノが好きだ。もちろん、「いい・悪い」の基準は自分で勝手につくっているのだが、せっかく生まれてきて、やがて母なるあの世に帰って行くのは避けられないのだから、せいぜい自分が喜ぶことをしたいと思っている。分不相応の贅沢はしないが、「ここまでなら事情が許してくれる」というギリギリのラインをわきまえ、その範疇で「好きなもの」を楽しもうと思っている。そういう考え方があるから、昨年、大好きな新宿御苑前に自宅を構えてしまった(74歳までローンを返さなければいけないことは、ちと考えたくないが)。

 さて、『Japanist』第13号でご紹介した津川清子(つがわ・せいこ)さんがつくる薫製が好きである。

 ふだん、さほど肉類を好んで食べているわけではないが、彼女がつくる薫製は旨味が凝縮し、まさにアートだと思っている。なにもアートというのは、絵画や音楽や文学ばかりではない。「つくるもの」のほとんどはアートになりえる。そこにどれほどの情熱を傾けられるか、その程度の差なのだと思う。津川さんが薫製づくりにどれほどこだわっているかは記事を読んでいただきたいが、要するに一期一会で「さらに良きものを」と追求しているのである。

 ところで、今回は薫製の話ではなく、津川さんがつくるおにぎりの話である。

 ときどき、菅野敬一さんの町工場で気の置けない仲間たちとわいわいがやがやと昼日中から会食をする。そういうとき、津川さんの薫製をつまむことが多いのだが、付け合わせとして彼女がつくってくれるおにぎりが絶品だ。右上の写真がそうだが、いわゆる普通のおにぎりとは姿かたちを異にする。

 赤ワインを混ぜてコメを炊き、炊きあがったらドライトマトとアンチョビを混ぜ、軽く塩・胡椒をする。聞けば、なるほどと思う。

 口に含んだ瞬間、えもいわれぬ味が広がる。薫製の合間に食べると、いっそう味が引き立つ。一口サイズの大きさもいい。

 ドライトマトのオレンジ色とアンチョビの茶色はごはんを舞台にした現代絵画のよう。食欲をいっそうそそられる。見た目にツヤがあるので、一瞬、オリーブオイルでもまぶしているのかなと思いきや、そうではない。これはドライトマトを混ぜているためだという。

 思えば、日本人とおにぎりは切っても切り離せない。その昔、武士たちはひとつかふたつのおにぎりだけで何日も行軍し、命がけで戦った。塩と海苔程度であれほど美味しくなり、しかも力が持続するというのは驚異以外のなにものでもない。いつ頃か、ごはんは太るとか炭水化物がどうのとか、まるで日本の歴史を知らない輩がまちがった「栄養学」を流布させたが、ごはんが体に悪いはずはない。日本が病気大国になったのは、コメを食べなくなったからだといっておかしくはないと思う。

 パンに納豆という組み合わせは考えられないが、ごはんはなんでも合う。ステーキだろうがカレーだろうがボルシチだろうがブイヤベースだろうが、合わないということはない。その懐の深さは比類がないだろう。

 そんなわけで、人それぞれのオリジナルおにぎりを集めて全国大会を開き、優秀作品を東京オリンピックで提供するようにしたら面白いと思う。

(140406 第498回 津川さんのおにぎりを、私は「母なる海と大地のおにぎり」と名づけている)

Profile

高久多美男

高久 多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

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